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流星のヴァルキリー  作者: 夢見 旅路
第1章 Boy and Girl engage Valkyrie
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第10話 戦乙女の御脚

時間が大分開いてしまいましたが何話か纏めて投稿できそうです。


そんなこんなで第10話です。


フレデリック・アイザー

19歳。小太りの青年、でもアリアの方がよく食べる。

 言いたい事だけ言って切れてしまった端末を片手にフィオは通路を走る。途中で何人かの兵士とすれ違ったがフィオの顔を見るたびにびくりと後ずさりをしていた。

 食堂からミーティング・ルームまで約7分と書いてあった。フィオはそれを3分に縮めて見せた。そして扉を押し破らんばかりの勢いでルーム内に走り込んでくると、

「誰が戦場に出るかぁぁぁぁぁ!!」

 とりあえず悠々と目の前の席に座っていたケインズに叫んだ。ホントは掴みかかりたい所だったが予想外に息が切れ体力が残っていなかった。

「無理だぞ!!戦闘なんて!!無理だからな!!そもそも試作機を戦闘に出すなんてしないって言ってたじゃないか!!」

「まぁまぁ落ち着きたまえ。とりあえず、ホラ。そこの席に座って」

 話はそれからとケインズは言う。ミーティング・ルームには長テーブルと10人分くらいの椅子が置いてあるだけで質素な作りだった。上座の位置にはケインズが座っておりその左横にマイカが座っている。そのマイカに対面するようにパイロット・スーツに着替えたロイが座っており、そのロイの右側にアリア、フレデリックの順番で並んで座っている。フィオはケインズに進められるがままフレデリックの横に腰を降ろす。

「さて……我が艦の機動兵器小隊のメンバーが揃った所で話を始めようか」

 メンバーと言うケインズの言葉にフィオはあらん限りの意志を視線に込めて否定する。

 その視線をケインズはさらっと受け流して話を続ける。

「まず……戦場というのは真っ赤な嘘で実はランスター君をからかいたかっただけなんだ」

「待てやコラ」

 フィオはあらん限りの意志を視線に込める。

 今度は殺意だ。

 ハハっと笑うケインズの姿を見てマイカは溜息をつき、

「艦長……自重して下さい。話が進みません」

「ま、そうだね……さっきは真っ赤な嘘と言ったがあながち間違いでも無いんだ。……正確には戦闘が起きたであろう場所だ」

「…?どういう意味だ、それ?」

 フィオが首を傾げて尋ねる。ケインズはマイカの方へ視線をやる。心得た様にマイカはコンソールを指で叩き、空間ディスプレイを呼び出す。

「10分ほど前、漂流していたデブリからC2粒子の反応が見られました」

 C2とはコール・クリスタルの略称で現代文明を支え続ける半無限動力源であるコール・クリスタルから放出される粒子にはある光線を当てると熱エネルギーと指向性を持って進むという性質がある。これが今日のビーム兵器と呼ばれる兵器の源であり正体だ。

「デブリの正体は宇宙船の外壁だと言う事が分かっている。恐らく何処かの船が海賊にでも襲われたのだろうね。救難信号は出ていないが現地に赴いて調査したいんだ。それで避難ポッドでも見つけられたら恩の字…人命救助って奴さ」

「周囲に我々以外の船以外見当たりませんが警戒する事に越したことはありません。よって一九三〇より準戦闘態勢に移行、双腕肢乗機小隊には周囲の探索を行ってもらいます」

「ついでにランスター君。君にも彼らと一緒に行ってもらいたい」

「何で?」

 フィオは明らかに不満そうな顔で言う。ただでさえよく分からない実験にまで付き合わされ更にこの上、戦場かもしれない場所に放り込まれるのはフィオにしてみれば勘弁願いたい所だった。

 だがケインズはひらひらと手を振り、

「いや。大丈夫だって。周囲に敵がいないのは分かっているし、何かあってもロイ達がいるから大丈夫だよ。ただ人手は多い事に越したことはないからね」

 特に人命が絡んでいるしねとケインズは付け加える。

「うぅ……」

 話を聞いてフィオは微妙な所だなと悩んでいた。聞く限り危険はなさそうだがもしもと言う事だってあり得る。

 しかし人命が掛かっていると言われると無碍には出来ない。フィオの頭の中でぐるぐると考えが巡っているとケインズはニッコリと笑う。

「398クレジッタ」

「は?」

 ケインズの台詞にフィオは首を傾げる。クレジッタとは星間連合で使われている貨幣単位の事だ。おおよそ500クレジッタくらいで一食分くらいなのだが、とフィオが考えを巡らした時、不意に先程まで食べていたサンマの味が蘇る。

「医務室でも昼食食べているよね?まぁアレに値段は無いんだけど大体500クレジッタとしようか。制服の貸与に12000クレジッタ、部屋の使用に4000クレジッタ、シミュレータの使用に3200クレジッタだし……そうそうランスター君は民間の宇宙船に乗った事はあるかい?アレ、渡航代に酸素料金とか含まれているの知ってた?そうだねぇ…一時間当たり850クレジッタくらいだと前に聞いた事があるから少なくとも丸一日この船に居るランスター君は20400クレジッタ払わなくてはいけないね。さて…合計でどれくらいかね?マイカ君?」

「40100クレジッタです」

 マイカは呆れた表情で答える。ケインズが何を言おうとしているのか察したからだ。フィオもだんだんと積み上がっていくその金額に顔を青くしている。

「リュンネ君はちゃんと働いて返しているけど……ランスター君?君はどうなんだい?自腹で払ってくれるのかい?」

「む、無理言うな!!こっちは今月の家賃さえギリギリで危うくロケットに詰められて何処かに飛ばされそうだったんだからな!!!!」

 フィオは声を大にして叫ぶ。先程までの自分の命と人命という天秤はケインズの余計なひと言でどっかに飛んで行ってしまった。

ロケットに詰められそうになってという言葉にマイカは不憫なと同情の視線を送る。

 ケインズはそんなフィオの慌てぶりを見てウンウンと笑顔で頷き、

「そんなランスター君にとっておきのアルバイトがあるんだが……とある双腕肢乗機に乗って探索を行うだけで70000クレジッタという簡単な仕事だ。どうだい?」

 ぐぅとフィオは唸り声を上げる。差額を考えても30000に近い金額が臨時収入として入る。万年金欠のフィオにしてみれば普段だったら1も2も無く飛び付いただろう。

 だが状況が状況だ。迂闊に返事は出来ない。しかし心は揺らぐ。

 そしてその心の揺れはケインズにはバレバレな訳で、

「……80100クレジッタ。10100クレジッタは私のポケットマネーから出そう」

「ぐぅぅっ!!」

 差額40000クレジッタ。日当で食いつなぐフィオにとってそれは夢の様な金額だ。鎌首を持ち上げる金銭欲にフィオは結局敗して首を縦に振ってしまうのだった。


 ミーティング・ルームから出たフィオはヴァルキリーが待っている格納庫へと向かう。格納庫に入るとすぐにフランがこちらに気付き手招きをする。ただの手まねき、だが何処か目が座っていて底知れぬ圧迫感を感じさせる。無視する訳にもいかずフランの居る作業台へとフィオは向かう。

「まったく……もう少し早くここへんについていれば実戦のデータだって……」

 不穏な事をぶつぶつと言いながらフランは自身の携帯端末を操作して空間ディスプレイにヴァルキリーの情報を映し出す。全体図、各部の詳細なデータ、同時に複数の空間ディスプレイを展開しながら作業台へと腰掛けたフランはフィオの方を碌に見もせずに問う。

「アンタ、機械には詳しいわね」

「断定なのかよ」

 確かにその通りなのだが。最も、フィオとてそれほど専門的な事を知っているわけではない。特に目の前にあるのは軍の最新鋭機だ。どんな技術が使われているか街の修理屋如きに分かるはずもない。

 それを察してかフランは肩をすくめて見せる。

「安心しなさい…スクールの小等部にも分かるくらいには説明を省いてあげる」

「そりゃあどうも……」

 フランはそう言うと空間ディスプレイにヴァルキリーの全体図を呼び出す。

「さっきの約束通り、ヴァルキリーについて説明してあげる」

「忘れてなかったんだな…いてっ!」

「黙って聞く」

 フランはフィオの頭を小突くと説明を始める。

「さて……ヴァルキリーに乗った時に気付いたと思うけどあの脚は只の飾りで付いている訳ではないわ」

「蓄電装置だろ?エネルギーパイプが全部、脚に向かっていたぞ」

「半分正解で半分不正解ね」

 どういう事だとフィオが首を傾けるとフランは空間ディスプレイに映し出されたヴァルキリーの脚を指し示し、

「これは蓄電装置じゃなくてC2機関よ」

「……は?」

 C2機関。それは簡潔に言えば<コール・クリスタルから放出される粒子を利用して電気エネルギーを生み出す装置>である。

 コール・クリスタル。絶滅種である水晶樹という樹木が長い年月をかけ石炭化したものがコール・クリスタルである。このコール・クリスタルはただの石炭とは違い、黒いながらも薄らと透き通っているのである。これはもはや絶滅してしまった水晶樹の特徴だと言う説が有力だ。コール・クリスタルからは絶えず同じ名前を持つ粒子が放出されている。コール・クリスタル粒子、通称C2粒子と呼ばれている。そしてこのC2粒子には様々な性質が備わっている。それは先程も少し述べた通りある種の光線をこの粒子に当てると熱エネルギーを生み、そして特定方向への指向性を与える事が出来る。これは兵器として利用されるだけでない。光線を調整する事で熱エネルギーの発生を抑え、指向性だけを与える事でタービンを高速で回転させ電気を生み出す事も出来る。この発電システムをC2機関と呼ぶ。尤もビーム兵器の様にただ真っ直ぐ飛ばすだけなのとは事なり、C2機関は粒子の制御に多大な装置が必要となる。なので主に地上の電力施設か戦艦規模の宇宙船でしか目にすることは無い。

「C2機関って確かC2粒子の制御に多大な装置が必要になるから縮小化が進んでいないって聞いたんだけど」

「これまではね。でもこれからは違うわよ」

 フランは挑発的な笑みを浮かべる。その表情を見てフィオは真実なのだと悟った。同時にゾクリと背筋が震えた。恐怖からでは無い。純粋に最新鋭の技術に技術屋のはしくれとして歓喜が駆け巡ったのだ。

「マジかよ……C2機関の縮小化とか話聞いてる限りでは無理だと思ってたのに出来ちまったのか……すげぇ……」

「言葉が出ないのも無理無いわ。この子―ヴァルキリーはね。双腕肢乗機の開発史上初の半無限起動を可能にした新世代機なのよ。エネルギー制限はほぼ無いと言って等しいから従来の主力軍用機共比べて出力強化されたアクティブ・スラスターやビームブレードもS2-27に搭載されている『スティンガー』式ビームブレードよりも出力の大きい『バヨネット』式を搭載。それでもまだ尚、この機体には余力があるの」

 まぁ問題が無い訳ではないけどねと呟くフランにフィオは眉を寄せる。やはりまだC2粒子の制御が完全ではないとかなのだろうか。フランは遠い目をしながら何でもない様に答える。

「強度が弱いからよ」

「?」

「だから、強度。装甲がほとんど無いようなものよ。そもそもC2機関にビームの直撃を耐えきれるほどの強度を求めるのもおかしな話だしね。そうね……例えば作業機の拳で殴られれば装甲がへこむわ」

「弱っ!精密機械の集まりだろ?!何でそんなに弱いんだよ!!」

 思わずフィオは叫んでしまう。同時に背筋が寒くなる。知らなかったとはいえ、ヴァルキリーでデュランダルから逃げ回っている間、脚への損傷を大して気にしていなかった自分の行動が怖くなったのだ。

「あれ以上装甲厚くしようとすると逆に重みで腰から付けておくのに負荷がかかり過ぎるのよ」

「そもそも何であんな脚みたいに生やしているんだ?」

「1つはあれ以上の小型化が出来なかったから…縮小化に成功したと言ってもまだ双腕肢乗機の内部に詰め込めるほどの大きさには出来なかったわ。まぁそれで何処に使えるかって話になって他の場所よりまだマシだろうって事で脚になったのよ」

 フランはテーブルの下にあった工具箱を引き上げると、中からスパナを取り出す。

「はい、これ持ってみて」

 そう言ってフランはフィオにスパナを持たせる。突然の事にフィオは首を傾げながらもそれを受け取る。

「スパナを持ったまま、腕を万歳するみたいに持ち上げなさい。持ち上げたらそのまましゃがむ」

 フィオはフランの言う通り、腕を上に振り上げた状態で机の下にしゃがむ。

「そのまま腕の関節を動かさずに机の下通れる?」

「…いや、無理だから。スパナ持っていなくたって腕を振り上げたままじゃあ机の下は通れないよ」

 とフィオが言うとフランは大きく頷く。

「でも、腕の関節が自由に使えれば机の下は通れるわよね。ヴァルキリーの両足も同じよ。挟路に限らないけど、脚のように動力機関を可動させる事で機体の機動に支障が出ない様にする役目があるの」

「あぁ……なんとなく理解出来た。つまりこのスパナがヴァルキリーで言う所の両足ってことか。動力機関の形をした脚を動かす事で相手の攻撃を避けるのとかにも使う訳だ」

「そういうこと」

 フランは頷く。

「ついでに言うと戦闘で相手とガチンコで殴り合う事もある腕に付けるのは論外で背中にアクティブ・スラスターの代わりに付けると背中ばっか気にして集中力が途切れるからよ」

「あぁ……だからまだマシなのね」

 フィオはげんなりとした表情で納得した。

「一応、<装甲が薄い>対策はあるのよ。ただそれを使おうにも今、この艦にはそれが無いから……というかそれが無いからヴァルキリーは十二分に戦えないわよ」

 そう言うフランの顔はどこか不満そうだ。

「まったく……折角のバトル・プルーフの機会だって言うのに……いっそアレなしで何処まで戦えるか……宇宙海賊でも出てくれれば良いのに……」

「無茶言うなっ!!」

 フィオは今にもフランに掴みかかりそうな形相で吠える。それをフランはまるで捨て犬でも扱うかのようにぞんざいに手を振り、

「じゃあまた別の機会にね」

「その時はもう本当のテストパイロットだと良いなっ」

 フィオは捨て台詞を残して立ち去ろうとする。

 フランは怪訝に目を細め、

「ちょっと。どこ行くのよ」

「更衣室だよ。パイロット・スーツに着替えなきゃいけないんだと」

 ミーティング・ルームを出てすぐにロイからその事は言われた。どうやら工場惑星で乗った時パイロット・スーツを来ていなかった事が相当危険な事だったようで注意された。 

「まぁそりゃそうよね……パイロット・スーツには完成の衝撃を和らげる防護機能もある訳だし……よくよく考えればパイロット・スーツなしであんな機動してたアンタ達がおかしいのよね」

 フランはそう言って首を傾げる。

 普通、何の訓練も受けていない人間が軍用機に乗れば楽に気絶できるものだが艦に運ばれてきた時エルムには何の異常も見られなかった。極度の緊張から解き放たれたフィオは仕方ないにしてもそれでも戦闘中は全く気を失っていなかった。

 フランが生物学者か軍の教官だったらフィオの適応能力に興味を持っただろう。尤もフランは技術者でパイロットの方には興味はない。10秒もしないうちに頭の中からその疑問を捨て去りヴァルキリーの出撃用意を進める。


 後にフィオの秘密を知り、フランは驚愕する事になるのだがそれは先の話である。


 エルムに教えられた通り上着のボタンを弄ると簡単にボタンのロックは外れた。フィオは便利だなと思いながら身支度を整え、ロッカーからヘルメットとライフ・ジャケット、下半身の血流をコントロールし身体を保護する特殊なハーフパンツを取り出す。ライフ・ジャケットの装着に四苦八苦しながらも何とか着替え終わると更衣室から出る。フランは更衣室から出てきたフィオを見てつまらなそうに鼻を鳴らし、

「なんだか……頼りない感で一杯ね」

 あからさまに残念みたいな顔をされフィオは眉を顰めるが相手に南下するものかと無視する事に決め、さっさとコクピットへと乗り込む。子供じみた行為に―フランからしてみればフィオなどまだまだ子供みたいな年なのだが―フランは周りの整備員たちに軽く肩をすくめてみせる。フランの態度も大人じみたとは言えない、と整備員たちは苦笑する。そんなフランや整備員たちを他所にコクピットに乗り込んだフィオはパネルを操作してヴァルキリーのスペックや兵装の確認をしていた。と、パネルを叩いていた指が止まり、フィオは眉を軽く寄せる。そして呆れた表情になると外に居るフランに通信を繋げる。

「やっぱり出鱈目なスペックだな…推進装置の出力が並みの軍用機の2倍はあるんじゃないか?」

『まぁね』

「俺、よくこんなの動かせたよな……」

『傍で見ていた私は何時心臓が止まってもおかしくなかったわ。ま、どうせ今回は乗っているだけなんでしょ?』

「まぁ……それもそうか」

 フィオは軽く顎を縦に動かすと不意に機体が大きく揺れた。

 何が起きたんだと周りを見渡すと、格納庫に居た整備員たちは慌しく動き回り器具やら何やら片づけ始めていた。

「一体、何が……ってうぉ?!」

 今度は機体がゆっくりと持ちあがって行く。何かに持ち上げられているようだとフィオが気付いた時にはすでにヴァルキリーは作業用アームで天井裏へと持ち上げられていた。

 そこは細い通路の様だった。最初、暗闇だった通路は順々に点灯を始め、通路内を明るく照らす。ヴァルキリーを掴んでいる作業アームは通路天井のレールと繋がっている。

 ここに来てフィオは何となく予想がついた。

「おい…まさかこれって……」

『あら…意外と勘が鋭いのね。多分、アンタが想っている通りよ』

「ちょ……っ!!」

 待ったと言いかけた所でフィオは言葉を失った。

 対衝撃構造であるコクピット内に強烈な加重がかかる。電磁誘導による強烈な射出に予想以上の衝撃を感じるがそれも一瞬の事だった。気付いた時には既に暗い宇宙に放り投げ出されていて射出された慣性そのままに機体はまっすぐ飛んでいく。

 リニア・カタパルト。電磁誘導を利用した発進補助装置であり、その使用する膨大な電力量から民間ではほとんど使用される事は無い。フィオもまた初めて経験するその衝撃的な感覚に胸が詰まる。本当に衝撃で胸が詰まりそうになっているのだけなのだが。

 それでも軍用機の耐衝撃構造は想像よりも優れているらしく、初体験のフィオが衝撃に負けて押し潰れたりしないだけマシだったのかも知れない。

「うぉおぉぉ!!」

 フィオは直進し続ける機体を制御しようとスラスターを吹かせる。直進方向と逆にスラスターを向けると急制動で機体に無理が掛かる。

 フィオは軌道予測プログラムを呼び起こし、機体がどのように進むかシミュレートする。その予測結果を参考にしながらフィオは各部のスラスターの微調整をしながら体勢を維持する。

「よ…っ!」

 掛け声をかけ機体を後ろ返りさせる。くるりと宙返りを打ち、一回転したところで機体は綺麗にその場で静止した

「ふぅ……焦った…」

『言っておくけど、実戦でそんなモタモタしていたらいい的よ?』

「誰が実戦に出るか!!いい加減、俺が民間人だってこと忘れてねぇか?!」

 思わず大声で怒鳴るフィオの耳にガハハと言う笑い声が聞こえてくる。

『とか何とか言いながらも結構慣れてきたんじゃないのか?さっきの体勢維持も素人にしちゃあ良い動きじゃないか』

 フィオが射出されたのは艦の上部、一方で船底ではハッチが開き3機のS2-27が姿を現した。縦一列に並べて降りてくるS2-27はどれも細部が異なる。

 先頭はリーダーであるロイのS2-27。標準的な装備だが隊長機として通信装置が強化されており、ノーズに特徴的なアンテナが2本ついている。

『魔女の機体相手にそこまで動かせりゃあ上出来さ。ま、後ろの坊主よりかはってくらいだがな』

次も一見すると標準的なS2-27に見える。しかしその実、内部のフレームを徹底的に強化し防御力を高めている重フレーム型に分類される機体だ。ロイが坊主と呼んだと言う事は、

「小デブか…!」

『デブ言うなっ!!』

 通信機越しに後ろの坊主こと、フレデリックが叫ぶ。

 最後に一番後方のS2-27が3機の中でも特にカスタマイズされた機体だ。

 右腕は電磁投射式狙撃銃、ウェポンラックを兼ねているアクティブ・ドライブには予備弾倉を搭載している。

 メンバー的にあの機体はアリアのかとフィオは考えていた。

『さて全員準備が出来た所で行くとするか』

 ロイはそう言うとフィオ達に行き先のデータを送る。

シルバー・ファング号から見て右舷、42度。流れてきたデブリの方向と速度から割り出されたそれのみがこの何もない宇宙空間でただ一つの道標だった。

「途方もない捜索だなぁ……」

 フィオは口の端をヒクヒクとさせながら呟く。

『ま、ぼやいていても始まらないんだ。いくぞ少年』

 そう言うとロイは機体を走らせる。その後ろをフレデリックとアリアが付いて行くのを見てフィオも慌てて付いていく。


 よもやこれが自分の人生を決定させてしまう出来事になるとはこの時、フィオは思いもしなかった。


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