おもちゃ創り
前回全くおもちゃが出てこなかったんでおもちゃを前面に出してみます。
彼女は何時でも一緒だった。
彼女と遊ぶときは楽しかった。
彼女とは大親友だった。
その時までは。
谷を覗いていたとき。彼女は言った。
「危ないから、神ちゃんは下がってて!」
私はそれでも近づいて行った。彼女に言われたからちょっと意地になっていたのかもしれない。
「神ちゃん~!・・・・ッ!」
ずるっ
間抜けな音がしたかと思うと彼女は谷底へ消えていった。
——まるで見えない力が働いているように。
「おおい、おい、ちょ、おもちゃ・・・。冗談だろ!」
私は彼女の遺体も貰った。お父様が探し出してくれたのだ。潰れてよく分からない肉片になっていた。すぐにそれは埋葬された。私は涙どころか悲しみさえも湧いてこなかった。
よく分からなかった。けど、一つだけ分かったことがある。
彼女は死んだ。
「私の手でおもちゃを作りたい。協力してくれないか?」
創君は綺麗な顔を崩してニタニタ笑った。
「ええよ。やけど高くつくで」
「望むところだ。」
私もニヤニヤ笑いを貼り付けて『創造主』に頼み込んだ。
お父様からもらった玩具。
お父様は運命の神と創造主の混血で、凄いエリートだ。一つの国の創造と運命を定めるのを一手に引き受けている。
そんな多忙のお父様が創ってくれた玩具。大切に、大切に扱ってきたつもりだった。けれど私は、お父様から『・・・2つ目は無いぞ。』何て言われるなんて想像していなかった。だって所詮玩具。代わりは何時でもきくと思っていた。のに。
創君は私を作業場へ連れて行ってくれた。創君はお父様の弟子で私の、今じゃ唯一の友達だ。
「ほな、チョイとやってみまひょ。ほんで、出来ひんかったら笑わせてもらわぁ。」
創君はそういうと、椅子に腰かけてダルそうに機械を顎で示した。
「おい。なんかないのか。手伝ってはくれないと思っていたが、これをこういう風にやった方が良いぞとか。いや待て、その前に嗤うなよ!」
「ん・・・。生前のおもちゃを、強く感じることやなぁ。つーか俺は絶対創らんで。めんどい。」
「『嗤うな』には無視なのか。」
ともかく私は前に創君と一緒に蛙を創ったことを思い出し、彼女の事を思い浮かべた。
その口を。
その輪郭を。
その垂れ目を。
その茶色い髪を。
その可愛い口調を。
その愛らしい動作を。
その純粋すぎる性格を。
その凹凸が全くない体を。
そのスラリと長かった指を。
その小さくキュートな身長を。
そのいつも動き回っている脚を。
その小鳥のさえずりのような声を。
そのクリクリと動いてた茶色い目を。
その細くて重い物を持てなかった腕を。
そのレース満載でフリフリな彼女の服を。
その一緒に遊びまわった楽しかった日々を。
その二人で喧嘩したとても嫌だった思い出を。
その喧嘩の後で仲直りして嬉しかった思い出を。
その騒ぐ私をやんわり止めてくれる慎重な性格を。
その私をこよなく愛してくれた優しく素敵な性格を。
そしてその美しい花がほころぶような底抜けの笑顔を。
眼を開けたら、そこには可愛い、可愛い、私のおもちゃがいた。
「・・・えろぉ、嫌味な神やんかぁ?ほんま、親にそっくりやわぁ・・・。」
と言う呟きは聞こえなかった事して。
「おもちゃ、逢いたかったよ!」
しかし、玩具は目を開けなかった。私はなにが違ったのかと考える。私が暴走する前に創君が小馬鹿にしたように、言う。
「ナニしてるんや。ゼンマイ付けなならんやろ?早よ付けぃや。」
「ゼンマイ?何、創君?玩具は玩具だよ。」
「魂がないから動かんのや。大体自分のおもちゃに人なんて大層なものいらへんやろ」
そんなはずない。現にお父様は。と言おうとした。けど、気づいた。なぜ『2度目は無い』のか?それは、魂が入っているからじゃないか。お父様は魂を持っていたのだ。何かで貰ったのかもしれない。それを、私が殺した。
「そんな!じゃあ、この玩具は目を開けないの?」
「アホか。ほんまに俺の話聞いてたんか?ゼンマイがありゃ動かぁ。」
創君の言葉はたまにわからない。私は首を捻りながら動かない玩具を見た。
「ウゴカァって、動くってこと?じゃ、ゼンマイ出してよ!」
「自分、俺の事馬鹿にしてますやろ。ま、ええよ。ほんまに知らんかったみたいやし。」
創君はすっとゼンマイを取り出し(取り出したように見えた位、創君が創るのは早い)玩具の背中に刺した血しぶきなんてあがる訳も無く、綺麗に馴染んで見えなくなった。
玩具は目を、あけた。
《アンドロイド起動。名前を入力して下さい。》
「・・・玩具。」
《入力完了しました。おもちゃ。略してO・M。アンドロイドO・M起動します ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・》
「彼女と同じ名前で良いんか?」
「うん。私にとっては、アンドロイドも彼女も玩具だよ。」
アンドロイドの玩具はにっこり笑って彼女の口癖を口にする。
「神ちゃん!」
「おもちゃ、なの?」
「何言ってるの!神ちゃん?私はおもちゃだよ?忘れたの?」
その顔を、彼女にそっくりな顔を見て私は純粋に彼女じゃなくておもちゃを愛そうと決めた。
「なわけないじゃん!遊ぼう!おもちゃ。」
「おい、ヴィル。お前の父さんから貰った玩具は本当に人だったんだな。普通に、人だったんだな。」
創君が真面目な顔をして、しかも標準語になって私に質問してくる・・・。私はオカシイと思いつつ笑顔で答えた。
「うん!彼女には、血が流れてたよ。心臓が動いていたよ。腕なんか取れなかったよ。遺体は血だらけだったよ・・・。」
「そうか。いや、すまへん。ちょぉ気になったもんやから。」
すぐ関西弁に戻ったので私は気にせずアンドロイドと遊ぶことにした。
創君・・・否フィルマメントは誰もいなくなった家で一人呟く。
「人なんて所詮、玩具だ。ヴィルはだんだん人間の考え方に似てきてる。やな兆しだ。」
その呟きに答えるモノは、もう、いない。
まーアレだな!才能のある私はおもちゃぐらい楽々と創れてしまうってことだ!凄いだろ!創君は創ることしかできねーけどな!
by神