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ベクトルマン  作者: 連打
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〔ハル編〕性的玩具の物まね



訳も分からず僕は何を考えていたんだろう?

ウジウジを左足に、グズグズを右足に。

ネガティブパワーを無理矢理熱量に変換し、ただ校庭の先のハルを目指す。

どうせ僕なんかが考えたって結論なんか出ない。息切れしたって突っ切る。運動不足のケツを引っ叩きながら、突っ切る。


「おーい!シショー!!」


アソコで車椅子に座りながら待ってる女の子に会いたかったんだ。話しをしたかった。色んなコトを聞いてみたいし、知りたかったんだ。


「情熱的ー!!全力だシショー!!」


僕は校庭を走る。


僕の方を見ながら嬉しそうにブンブン両手を振り上げつつ笑顔を振り撒くあの女の子に。


僕は。


「お、おうりゃあああっ!!」


「っと!?え?、いやいやいやシショーっ!?」


両の腕は交差させ2メートルきっかり手前で地面を踏み切る。ちょっとだけ捻りを加えた僕の身体はゆったりした螺旋を描きながら。


「なんのっ!」


車椅子の座椅子部分に足を掛け空中にひらりと舞うハル。僕はソレをスローモーションの動画のように眺めながら車椅子に勢い良く、そりゃあもう景気良く。


「いだ!いだだっだだあ!?」


激突しながら校庭を転がった。


砂埃の中仁王立ちしたハルは不敵な笑みを浮かべ勝ち誇った微笑で僕を見下ろす。


「ししょー」


「は……はい」


意外と車椅子って重いんだな。よっこいしょ、と持ち上げ立たせてみるとどこも壊れていない。しっかりした作りな……ん?これ油圧ブレーキ付いてんじゃん!

スゲー!!車椅子スゲー!!


「こーらーーーっ!!人の愛車を撫で回してる暇は今のシショーにはありません!!」


おおう。怖い。


「わざわざ訪ねてきた病弱プリティーマジシャンに向かって、助走付けてからのフライングクロスチョップはさすがにどうかと」


「いや……だだっってさ」


「『だって』って……なんなんだこのやろー!!言い分が!?あんの!?聞こうじゃないさ!!この可愛らしい耳でミゴト聞き取ってやろうじゃんか!!」


アンコールの声を催促する痛いミュージシャンのように片方の耳に手のひらを当て僕の口元に寄せるハル。


「はーやーくー!言い訳ぷりーず!!全く、何日も何日も待たせやがりやがって!!」


「む、6日だね」


「……へ?」


ハルは自分の膝を地面に置き、僕の顔を珍しそうに覗き込む。

僕の目の中のそのまた奥になんか面白いことでも書いてあるんだろうか?


「やっぱりさーめんどくなったとか?」


「え?」


そんなこと言っただろうか?いや、無いな、だって僕は。


「……ほら、もうすぐ死んじゃうコと仲良くなるとさ。後々良いこと無いんじゃないかなあーなんちて」


消え入りそうな細い声は校庭のさほど強くない風にも軽く飛ばされそうで。こんなハルは初めてなんじゃないだろうか?だってハルはいつも元気でエキセントリックで笑ってて。


「だからさー。今日ココに来たのだってそこんとこハッキリしとこうかなーって。6日もあれば考えちゃうんだよねー、シショー学校もあるし忙しいの分かってるんだけど」


きぃ、と車椅子が僕とハルがしゃがみ込んでいる場所に移動する。


「ごめんね急に。このコ柄にも無く落ち込んでるからさ。ヒナタ引っ張ってきたの私なの」


氏原です、と名乗った女性は苦笑いしながら車椅子にハルを座らせる。


「迷惑に感じる事も仕方ないと思うよ私は。看護師なんかやってるとさ、肉親ですら見舞いに来ない、亡くなっても遺骨も受け取らない、なんてザラにあるケースだし。ましてキミまだ会ったばかりらしいじゃん?」


落ち込んでた?ハルが?

なんで?


「この子は強いコだから気兼ねなく本音言っちゃってよ。私が付いてるしこの子だって慣れたものよ。ね?」


こっくりと車椅子に座りうな垂れるハル。僕は混乱している。なんでハルがこんなに悲しそうに見えるのか分からなかった。


「ラクショーだぞシショー!なんならコッチからシショーなんかお払い箱にして」


「ぼ僕は」


氏原さんとハルはまっすぐ僕の目を見て僕の言葉を待っていた。そんなにたいそうな事言わないんだけどなあ。プレッシャーかけんなよこんにゃろう!


「……」


は!?


いかんいかん!!黙れば黙るほどハードル上がってしまう!

あ、あれ?言葉が……どっか行った!?ねえし!僕のキモチってどこにあんのさ!?どうすりゃいいのさこの謎の緊迫感!!ものすごい見てるし!氏原さんもハルも!!


あーーー、むり。

土台気の利いたことなんて言えないし。

ま、思ってたこと素直に言うか。しょうがないよ失語症のドモリオタクだし。期待するほうが悪いって。


「ハル」


「ひゃ、ひゃい!」


ぐっと目を閉じ身体を強張らせるハル。

おーい、オチ、無いぞー。


「ずずずっと会いたかった」


「……ぎゅも!?」


かっと大きな目を更に見開いて僕に『オチは!?』の視線を投げかけるハル。

ほらなあ。

コドモみたいな言葉しか出てこねえし!あーー、絶対呆れてる!!氏原さんやたら爽やかに笑ってるけど、やっぱバカにされてるよ!!

ハルなんか下向いてプルプル震えてやがる!!

そんなにか!!お腹イタイイタイになるまで笑ってやがんのかコンチクショー!!


「シショー」


「そそそんな泣くほど笑わなくても」


いいじゃんかよー!!


「ありがと。……会いたかったよぅ」


のおおおおおおお!?

かか、被せてきやがったー!!!!まーじーでーかー!?

そこまでバカにするのかこの天然躁患者め!!ようし分かった!!うう腕相撲とかで!けけ決着をおお!!


「よかったねヒナタ。いい子そうじゃん彼氏」


ポンと優しげな表情でハルの頭に手を置く氏原さん。僕がスベッタのがそんなに嬉しいのかい?そうかいあんたも敵なのだな、そうなのだな?


未だ俯きプルプルと性的玩具の物まねを止めないハルの頭をワシャワシャとこね回した氏原さんは僕に満面の笑顔を向けてこう言った。


「病院で待ってるね。これからもよろしく!」


おおう。

おおーう。

いいだろう。やってやんよやってやるともさ。


その挑戦しかと受け取った。


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