〔ハル編〕逃避行動の有用性
家に帰った僕は帰りが遅くなった理由をごにょごにょと適当に言い訳し早々にベッドに潜り込んだ。
姉にも変人野郎(父)にも何も言わなかった。ハルの一件があまりにも……なんというか現実離れしていたから。
「……」
僕にしては珍しくPCを立ち上げることも無くごろごろと寝返りをうつ。
まさか、とそう思う。そのたびに枕に頭を打ち付けた。嫌な考えとハルの笑顔が交互に現れては必死に振り払う。心がもぞもぞして仕方が無い。
アキはどういうつもりで僕をハルに会わせたのか?……あ、違った。僕が発作的に売店で啓蒙活動をしていたのを見たハルが寄って来たんだった。
んー。
んで……病室行って妙な雰囲気になり、とんでもない迫力に押され、おかしな感情のまま、気の触れた告白を聞いた。
『だからねー。投げてみたんだダーツ』
……。
一体どういう意味なのか。あの記者はなんだったのか。確認なんて出来ないから真偽のほどは定かではない。
出来ない、か?
調べられない?
それは、多分違う。
調べたくないんだ。
怖いんだと思う。
ハルに会いたい気持ちは、ある。もう一度会って2人で笑っていたかった。僕はあの無防備な強さに憧れているのかもしれない。しかし。
会いたい気持ちが強いほど付随する影の部分も増していくのを感じる。
――6ヶ月――
ぶるっと震える。
――もう手遅れだろうがな――
ぴし、と亀裂が入る。
僕がヘタレで、なんて次元の話では無い濁流のような現実が会いたい気持ちを霧散させてしまうのだ。
考え、靄が消えかけると現れるのは。
僕の現実を吹き飛ばす、徹底してノーガードなむき出しの笑顔だった。
「……」
そんなことを考えているとカーテンの隙間から漏れる光。
って、おおおい!朝!?まじかー!?
僕はハルのことだけ、そればっかり考えて徹夜してしまったのだ。僕は一体どうしてしまったんだろう?これでは僕がハルに恋焦がれてるみたいじゃないか!?
いやいや、まさかね。
確かに会いたいよ?
でもほら、いろんな、いろーんな『会いたい』ってあんじゃん?ハルに関していえばワカラナイ事だらけで、要素が散らばりすぎて収拾付かないカラ!
ここは一旦距離をとり冷静に自分を眺めるのがベター。
クール・ダンディーは常に第三者の視点をジッポーと共に常に携帯してるもんだしね!
まずアキに問いただしてみよう!
あのオンナ情報なんも寄越さないで『お願いします』はねえだろ!?そりゃ混乱もする!シカタナイ!!うん!!
僕はまだ5時だというのにいそいそと制服を着込む。もう学校に行ってしまいたかった。
早く自分のペースみたいなものに触れたかった。
『日常』ってやつに漬かってしまいたかったのかもしれない。漬物みたいに。
さっさと上着を羽織るとはらり、と何かが床に落ちた。
「……」
『鬼頭 修』と書かれた名刺を凝視する僕。
……。い。
いやあ、今日もいい天気だ!
さっさと学校に行こう!そうしよう!!