〔ハル編〕強制徴集令状?
中庭。
昼休みになり藤崎と智花は学食に昼食を買いに行った。僕は先に中庭に行くことを伝え買ってあったカレーパンに思いを馳せつつ歩を進める。
すると……
「よ、よお」
既にユズキカナが芝生に陣取っていた。イノシシとゴリはなにやら用事があったらしく『バカによろしく』とご丁寧に罵倒の挨拶を僕に伝えるユズキカナ。僕はせっかくなのでユズキカナに聞いてみる。
「あー。なんか聞いたことあるよその子」
ラッパーのように勝手に捲くし立て消えて行った女子生徒。その素性を探れないものかと簡単な特徴をユズキカナに伝えると、あっけなく知っていると言う。
ユズキカナは小さな弁当箱を中庭で広げながら箸を僕にフリフリしつつ教えてくれた。
「多分わたしや古都、梶と同い年。ダブリってやつ。今2年なんじゃないかな」
「……だダブリ?」
「この学校じゃ珍しくないんだよ。各学年に2、3人はいるんじゃないかな」
「へえ」
まあ確かにあの授業についていけない者がいても不思議じゃない。現に僕だって着いていけているのか全く自信はない。他人事じゃないよなあ。僕はパクリとカレーパンに齧り付く。んまい。
「成績絡みじゃなかったみたいだけどね」
違うのかよ!同情して損した!
「双子の姉さんと一緒に入学したらしいんだけど、なんか割りとシャレになんない病気らしくてさ。一年休学したんだよ。復学してたんだね」
なんだよ!やっぱり同情しとく!ごめん!
と、自分の上着のポケットをまさぐるユズキカナ。
「全然関係ないんだけど……コレ」
ぱさり、と僕の足元にいくつかの便箋状の紙切れを放る。
「……なな悩み相談ならもう、てて手一杯だよ。ゴリとも話したけど恋愛沙汰に首つつ突っ込むのは」
「ラブレターだよ、あんたに」
「……へ?」
「モテる男は大変だ」
もぐもぐと。
ユズキカナの弁当を咀嚼する音だけが響く中庭。
おおう。ここここれがあの有名な。
リア充へのプラチナチケット、その先にはディズニー的なワンダーランドが待ち構えているという強制徴集令状。
Love letterなのか!!
こんな初歩的なトラップにおめおめ引っかかる僕ではない!舐められたもんだぜコンチクショウ!三次元に僕の居場所など無い!そんなこととっくの昔にまるっとお見通しなんだってばよ!!
ささささあ、どんな邪悪な魔法がねじ込んであるのか、かかかか確認してみみみるか。いや!ちち違うんだから!!期待なんかしてないって!!僕をだだ誰だと思ってんだ!!ぜぜ全国の『やらずに二十歳』の猛者たちを目指すぼぼ僕は一応!一応確認だけ!お願い!
僕は恐る恐るその紙片たちに手をのば
ざん
「見るの?」
串刺しである。ユズキカナは手にした箸を紙片に突き立てていた。
「え……いいいや、一応ほら……かか確認っていうか……」
「確認ねえ。ま、あんたに来た手紙なんだから別にいいけど」
「ああ穴!増えてるって!!ささ刺し過ぎ!!」
ブスブスと、セリフとは裏腹に飛躍的に穴を量産していくユズキカナ。表情はニコニコと一点の曇りも無く晴れやかだ。なんだろうこの迫力は。僕は顔に汗がびっしり張り付いている。
「悩み相談だっつんてんだろうがよ……なに横から手ぇ出してくれちゃってんの?」
おおおおう!!ユズキカナがDQNに先祖返りしてはる!!小声でなにやら呟きながらエンドレスに箸突き立ててはる!!
「おまたせー。って……どうしたんです柚木先輩?」
おおおおおおお!ナイスタイミング智花!!この暴走DQNを止めてくれ!!
「あ、ともっち。例のアレ。処分してんの。周蔵がいいって」
言ってねええええええええっ!!とと智花なんとかし……
「わたしもやるー!とうっ!」
もはや穴だらけになった紙片をPKのように蹴り飛ばす智花。
「ナイスキック★」←ユズキカナ
「えへ☆」←智花
おおあおおおお!?ふふふ藤崎は!?二人がご乱心だぞ!!
「全くふざけてますよねー。わたし柚木先輩応援してますから!」
「ともっち……」
芝生の上でひし、と抱き合うユズキカナと智花。ぽんと僕の肩に乗せられる誰かの手の平。くるりと振り向くとそこには藤崎がうつむいてゆっくり首を振っていた。
「……ふ、ふじさk」
「自分だけ幸せになれるなんて思わないほうがいいよ」
おおおおおおおおおおっ!?
「僕らはそういう星に生まれたのさ。新木もそろそろ自覚しようよ」
ニカっと笑う藤崎の晴れ渡った青空のような表情にキラリと光るものがあったような気がしたが……ギリギリと掴まれた僕の肩を握る力が増していくので。
黙ってることにした。