恋愛の反応と展望
『部活』が始動し始め変化したことがある。
いや、変化するべきなのに変化しなかったというべきか。
僕への迫害は皆無。積極的に僕に関わってくる生徒もいないが、積極的に攻撃してくる生徒もいない。改めてゴリや姉の影響力に感心した。
「……」
軽く溜め息。朝の登校時ゲタバコの蓋を開くと足元に散乱する紙片。僕はそれを拾うため板の仕切りをひっくり返したり、辺りを入念に見渡す。
「……」
全て拾い終えたようだった。もうこの作業は毎日の朝の日課となりつつある。専用の箱的なモノを廊下にでも設置するべきだろう。
「今日もかい?全然追いつかないなあ。おはよ新木」
ぽん、と肩を叩かれる。見なくても分かる。この学校で僕に話しかけるのは『部活』の面々だけで、男メンバーはゴリと……
「おおおはよ藤崎。昨日のヤツかか片付いた?」
「うーん。まあ話だけは神妙に聞いてたみたいだけど。でも梶先輩に言われりゃ誰だって神妙になるだろうし」
たしか『ストーカーに遭っているので何とかしてください』との依頼だったよな。なぜか藤崎はあまり機嫌が良くないらしく、靴を脱ぎゲタバコに乱暴に放り込む。
「新木の方は?『彼氏が浮気してる』ってやつ」
「よよよくハナシ聞いたらさ、どっちが浮気なんだかわわ、分かんなくなって……保留」
「僕も。『ストーカーされた』なんて言ってるけど自意識過剰なんじゃないかなあってフシもあってさ。僕らは警察じゃないんだから断罪出来ないよね」
「……」
とりあえず依頼された揉め事を男メンバーで解決に当たってみたものの、これが想像以上に困難なのだ。そしてほとんどが生徒間のイロコイ沙汰なので、こんなことを続けていたらいつかゴッツい馬にドロップキックでもくらうんじゃないだろうか?
「おいバカ共。提案があるんだが、聞け」
「あ、おはようございます梶先輩。どうでした?」
廊下で軽く会釈しながら依頼の進捗をゴリに尋ねる藤崎。たしかこのゴリラは
『てめえらに恋愛の問題解決なんてハナから期待してねえ。ソレ系は俺が即解決してやるよ』
うぇーはっはっはっはっはっはっは、と高笑いしていたはずだったんだが。
「好いたホレたは受付けねえことにしねえか?」
「……異議なし」←藤崎
「おお、同じく」←僕
即答である。
たしかにこの年代の悩みの大半は恋愛の問題が多いのはうっすら気付いていたのだが、まさかここまでとは。今までの依頼ほとんど100%、そういって差し支えない。この頭のおかしい進学校においてもこんなに恋愛で悩んでいる生徒がいるのはさすがのゴリも完全に想定外だったようだ。
「チマチマとよ。『メールの返事が遅い』だの『サイトで叩かれた』だの『ラインで彼氏がそっけない』だの知らねえっつんだ。スマホ握り潰しゃ解決だろうがよ。なあ」
僕は確かにオタではあるがソーシャル系にはまるで疎い。他人と四六時中繋がっていたいと切望する気持ちが全く理解できない。
「でも今ある依頼だけでもこなさないとマズくないですか?」
おそるおそる進言する藤崎。
「まかせた。俺はもっとよ、なんてんだ?『影の実行委員』とか『悪徳教師の横暴』とか担当で頼むわ」
中二設定を渇望する筋肉は軽く手を上げ3年の校舎へと消えていった。っていうか、そんな依頼はナイ。
まあここまで真面目に取り組まなくても誰も損はしないのであるが、これは僕のささやかなプライドの問題でもある。
実態をもった部活にしなければ僕は……ただみんなに守られているだけのバカヤロウになるから。
「柚木先輩にでも相談してみる?」
「……そそそうだね」
僕と藤崎は足取り重く教室へと向かう。すると
「新木、今日放課後ヒマ?」
藤崎は僕の方を見もせず自分の足元に言葉を転がす。
「今日は最後のカウンセリングなんだ。何のかって?君のお姉さんのいたずらで僕は社会不適合者寸前だからね!あっはっは!おかしいだろ?笑ってくれよ新木!」
ミュージカルの演者のような軽いステップで廊下をくるくると廻る藤崎の目にキラリと何かが光った。が、ソレは見ていないことにしよう。そうしよう。