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ベクトルマン  作者: 連打
73/189

大事に育てていた(市川サイド)


やっぱり。

きっとこうなるんじゃないか、そう思っていた。


昼休み。


廊下の窓から眺める景色、楽しそうな梶くんの声と笑顔。周りには新木先輩と柚木先輩。


見るからに華やかなその『中庭』はとてもキラキラと輝いていて……とても、遠い。



「……」


ぎゅうと締め付けられるココロの痛みにも慣れてしまった、卑屈にもほどがある。

これが当たり前なんだと、梶くんには私は不釣合いなんだと自然に納得してしまう。

どうしてこんなことになってしまったんだろう。


私の歪に捻じ曲がった心であの『中庭』に入ったら窒息してしまうんじゃないだろうか?そんなことさえ想像出来てしまう。

楠木さんが憎らしかった。

楽しそうな梶くんを見ていられなかった。



なんて……醜い……



「しし、質問」



「……えっ」



新木……くん?

いつからここにいたんだろう。廊下の窓枠にすがり付くように中庭を眺めていた私のすぐ横でぺたんとあぐらを組んでいた。

ここ、2年の廊下なのに。



「化粧しししてる?」


「……え、あ……少しだけ」


「なななんで?」


「なんで、って」



手持ち無沙汰なのか自分の足首をさすりながらおかしな質問をする新木くん。

何をしに私のところに来たんだろうか?


いや。


怒っているのだ。私や私たちの自分勝手さに。当たり前だと思う。

結局楠さんのイジメは収まったものの、今度は自分が標的になってしまったのだから。

完全なとばっちり、そしてその原因は私たちなのだから。



「しし死にたいヤツが、化粧する?そそそういうものなのかな?」



「……」



僕は男だから分からないんだ、と。

頭を掻きながらそう漏らす新木くんは……怒っているそぶりは伺えない。



「……」



いっそ怒鳴り散らしてくれればいいのに。

私の不妊はこの1年の男の子には全く関係ないのだから。そして……梶くんにもあまり気にして欲しくはなかった。相手が誰であろうと有り得た事態、誰のせいでもないただの不幸。

私はその不幸を大事に大事に育てていたんだ。

この『不幸』が私と梶くんをひょっとしたらまた繋げてくれるんじゃないかなんて考えてしまう……とんでもなく卑怯な人間なんだ。



だから。



「死ぬつもりなんて無いから……ファンデくらいはするよ」



怒って欲しかった。



「同情されたかったの。驚いた?」



誰かに気にされたかっただけ……その程度の人間なんだ。



「でででもさ」



まだ?

まだ足りない?


どうしょうもない自意識を巻き散らかして自分の友達を巻き込んで……楠木さんや梶くんや、新木君だってとばっちり受けて。全く関係ないのに。ただのわがままだったのに。


なんで、怒らないの?



「そそそんな端っこでイジイジ、てて手首切ったって……同情なんてだだ誰もしないよ」



「そ……うだね」



「どどどうせならさ。ここ効果的にやややれば?」


「……?」



昼休み。

廊下はゆったりした喧騒に包まれているはずなのに……なぜか私と新木君の周りの空間だけ抜け落ちたように静かだった。



「ゴリ……か梶センパイは、けけ結構イイやつだよ」


「……」


「お前のせいだからせせ責任とれって……言ってもにに逃げるようなヤツじゃない」



「……うん」


「なな、なんならあああいつの目の前でリストカットするとか。もうなな慣れたもんでしょ、ちょっとだけきき切るなんて」



「……うん」



「りょりょ、良心につつ付け込んで、さ。泣いてわわ喚いて『もももう一回付き合え』って」



「私『ももも』なんて……ドモリません」



そうか、と自分のおしりを軽く払いながら立ち上がる新木君。


変なヒトだ。

なんで笑ってるんだろう?なんでこのヒト怒ってないだろう?


前、教室で会った時は殴り合いまでして暴れたっていうのに。



「じゃあ、いい行こう」


新木君は中庭を見て私に言った。


「ああアイツの困る顔をおかずに、かかカレーパン。……わ悪くない」



「あ、あの」



くるんと振り返る新木君の不思議な笑顔に向けて私は言う。







「市川……有紀って言います」










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