『粋』(姉サイド)
昼休み。
「梶君」
一言いわねばなるまい。彼の心遣いと機転、そしてその影響力。
彼は自分の存在あっての提案を当然のように実行に移していた。
「……新木サン?」
自分の机でいつものようにふんぞり返るスタイルは80年代の学園ドラマのノリに見えるが、彼が抜け目無いのはここが『特進クラス』だと言う事。
実は優秀なのである。
「とぼけちゃって。コレよコレ」
私は彼の机の上に一枚の用紙を置いた。
「あぁ。もう許可おりたのか。さすが『新木古都』の名前が入ってると円滑にモノゴト進むな」
「名前なんか幾らでも使って。それより……」
彼にはこんな事をしている余裕は無いと思っていたのに。
「アッチは……のんびりやるよ。慌てたトコロでどうなるもんでもねえし」
私の逡巡を察し、自分の頭から答えを引っ張り出す梶君。頭の回転も速く気遣いも出来る、外見とはまるで似つかわしくない気配りのヒトなのだ。
2年の女生徒の事は彼が解決すべき問題であるし、誰よりも梶君がソレを自覚してないはずは無かった。
「ところで……部長の欄『新木周蔵』になってるけどいいの?」
「いいんじゃねえか?俺は別に新木サンが部長でも全然カマわねえけどな」
「いやよ」
「だろ?んじゃ問題ねえ」
登校早々に提出された部活動の許可申請。うちの学校では部員が5人いれば基本的には大した障害も無く受理される。
私はその用紙に書かれた活動目的に目を通す。
「えーと。『学校内の私的、公的に囚われない全ての問題の解決にあたり個々人の社会性獲得を目指す為の活動、及びそれに付随した行為その他……』よくもまあいけしゃあしゃあと。梶君って将来省庁狙い?」
「それっぽいだろ?」
「そりゃあもう。何が言いたいのかよく分からない見事な文章だわ」
「新木サンに褒められるとは、我ながら上出来だ」
にやりと笑う梶君は楽しそうだった。
「ま、受験センソーなんざ参加する気はサラサラねえしな。じゃあ後1年何するかってーと……これがまたヒマなんだ」
「で、私やカナ。あのバカ巻き込んで県内有数の陰険学校でトラブルバスターでもやるかって感じ?物好きね」
「なんせヒマなんでな。協力してもらうぜ?」
……野暮か。
こんなことは梶君抜きでは出来ない。彼が居ることによって初めてこの『部活』は実行力を得るのだ。
そしてその『傘』はあのバカにも及ぶ。3年の梶君や私、カナの存在により周蔵へのイジメは多分無くなるだろう。
何せこの梶君が
『内外問わず問題を粉砕する』
と、新たな部活を通して正式に宣言しているのだから。
連綿と受け継がれてきた陰湿な体制、ひいては対学校への徹底抗戦である。
「生徒会の顔、潰してしまわないかしら?」
「全然動かねえんじゃ無いのと一緒だろ。邪魔なら取って変わる」
「あら過激」
「新木サンに言われたくねえな、聞いたぜサイコパスの1年坊」
「……よく分からないんだけど?」
「頼もしいなおい。やっぱり新木サンは必要だ」
梶君の性格上、周蔵の為とは口が裂けてもいわないだろうし……やっぱりここは黙って笑い飛ばしてあげるのが『粋』ってもんなんだろう。
オトコノコはいつも素直じゃないのである。
だから『ありがとう』はしまっておくことにした。