全部元凶なんだよ!
「ひとをレズビアン呼ばわりした天罰よ、ジゴージトクじゃない」
ひとしきり教室中を転がりまわった僕、藤崎、智花はその場でシクシクと泣き出した藤崎を引きずるように席に戻った。
「……だってさあ……まさか学校の保健室でカウンセラーに監禁されるなんて……」
・・
ヤツが一枚噛んでいたか。
ぎりっぎりのラインをエグイ角度で責め立てる、あのイノシシ女……敵に回すにはリスクが高すぎるのを痛感する。
姉によりサイコパス予備軍の容疑を掛けられた藤崎は……家に帰してもらえたのは深夜2時を回っていたらしい。その間藤崎は絶え間無く質問されていたらしく。
そう、あの針の振り切れた質問だ。
「すごく優しく質問してくるんだけどさ……目が一瞬たりとも笑わないんだよ」
同情の念をキンジエナイ。
不幸なイケメン、藤崎の涙がキラリと光る。
合掌。
「いつまでもシクシク泣かないの!もう終わったことじゃない」
……おおう。
智花はレズ呼ばわりされた事をいつまでも根に持っていた!そっちの方が遥かに被害は少なく、終わった事であるにも関わらず!
オンナという生き物は自分以外には冷酷である、との認識はどうやら間違ってはいないようだ。
「……なにシューゾーくん?文句ある?」
「べべべ別に」
おっかないから黙っておこう、そうしよう。
僕は無言で藤崎の背中を軽くたたく。君に、幸、あれと願いながら。
「はいおはよー」
がらりと木製のドアを横滑りさせて沈黙の支配する教室になだれ込んできたのは、担任教師である福島先生であった。
「お、3バカはちゃんと登校してるね!上出来上出来」
先生の視線はなぜか僕らの方に向けられており……
「私は被害者じゃん!こいつらと一緒にしないでください!」
猛然と食って掛かる智花。
「僕は反社会的思想なんかもってない!何回言えば信じてくれるんダヨ!?」
まだ錯乱中の藤崎。
まあそれ以外の生徒たちはヘイワなもんだ。今日は風も少なく天気もいい。
今からでも穏やかに、そして静かに学校生活を隠遁して過ごしていこう。
「……ちょっとバカリーダー。ホームルーム始めたいからバカメンバーを黙らせてくれる?」
そうださっさと日常を送ろうぜ。高校生の実生活なんて退屈と平穏の繰り返しなんだし、ましてや僕なんかいじめられっこ筆頭なのだから。
早いトコ時間を進めてくれないだろうかってなもんだ。
「……?」
つかつかと機械的に歩を進める担任教師は……なぜか僕の前まで来ると足を止めた。
「ば、バカメンバー!?私入ってるのソコ!?」
「ネコはカワイイって思ってるよ!ホントだって!」
藤崎に関しては……しかるべき医療機関に引き渡すほうが賢明なんじゃないだろうか。
担任教師は縋り付く二人を露骨にスルーし未だ僕の眼前から動こうとはしない。なんでだ?
「……」
僕は恐る恐る担任の身体を這わせるように視線をずらし、自分の首に角度を付け福島先生の表情を確認するべく行動を開始。
すると。
ニッコリ微笑んだ福島先生の右腕がゆっくりと振り下ろされるトコロだった。
「リーダーはあんたよ」
ペシン、と頭をたたかれる僕。
しばし呆然として口が半開きになってしまう。どういうこと?リーダーってなんだ?
「えっ!?まさか自分は関係ないとか思ってたのシューゾーくん!ありえない!!キモイ!!」
「そうだ!新木の方がよっぽど危険思想の持ち主だ!このテロリスト!」
いやいやいやいや!!
「ききキモイってなんだよ智花!?藤崎もじじ自分の責任、転嫁すすするなよな!!」
なんだってんだ!?なんでこんなことになってんだ!?
「シューゾーくんが全部元凶なんだよ!?自覚しなさいよね!!」
「僕は誰も殺さないよっ!!うえああああんっ!!」
あーもーうるさい、そう言って僕と藤崎、智花の頭を一回づつ叩き教壇へと引き返していく担任福島。
「……」
風も無いし……心地よい朝のホームルーム……なのか?