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ベクトルマン  作者: 連打
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しいたけ


なんにも変わらない景色、昨日の延長の今日。

小刻みな電車の揺れに身を任せながら憂鬱に埋もれた頭を車窓に軽くぶつける。


「……」



『学校をしばらく休む』という選択肢もない訳ではなかった。しかし、まあ。

こうして律儀に同じ時間に起床して、姉の沈黙という怒りに晒されながら朝食を取り……あくまで自然な行動として学校に向かっている自分は嫌いではなかった。



「……?」


にしても。


自意識過剰なんだろうか。

今日はやけに視線を感じてしまう。僕の溢れるような自己保存本能が敏感になってしまっているんだろうか?

言っておくがこれは『ビビリ』ではない。

遺伝子からの命令、拒否権ナシのトップ・ダウン。脳髄のフェスティバルにして狂乱のねぶた祭り。

抗うことの叶わない条件反射のノリツッコミなのだ(ババーン)!!



びびビビってないってまじでまじで!

無意識にカラダが『ビクッ』ってなることあるじゃん、それだってソレ。

それにいきなり体育館の裏とかで腕まくりしたバンチョーにボコボコにされるとかないじゃん。

それクライマックスだから!

今日は初日ダカラ!

まだ開園前だからー!並んじゃだめー!



「……」


などと自らの運命をシミュレーションしていたら降りねばならない駅に到着。

階段を確かめるように慎重に降り改札を抜ける。当然のように同じ学校の生徒たちがレトロな単語帳とにらめっこしながら歩を進めていた。



「……」


ま、まあそうだよな。

気が触れたような進学校であるわが母校、『鉄拳制裁』の行使はやはり想像しにくい。


僕を標的にしたとしても手段はきっと陰湿で陰険なもののハズ。

例えば……



『僕の下駄箱でしいたけを栽培する』とか。


『僕の机のなかでしいたけを育成する』とか。


『僕の発言を毎回《は?しいたけ?》と聞き間違いされる』とか。



「それはちょっと見てみたい気もする」



気軽に言ってくれるぜ。

しいたけってのはガキの遊びじゃないのだ。

あのフォルム、匂い、肌触り。


全てがガチ、ヤツが小動物のような必死さで僕らに訴えるのは『不快感』。



「おいしいじゃん。私嫌いじゃないなあ、しいたけ」



草の根レベルのヤツの浸透力はやはりハンパじゃないらしく、クラスメイトの智花はすっかり懐柔済みのようだった。

最近ごり押し感のヒドイ『水菜』の影に隠れてはいるが……古豪、しいたけの実力は未だ未知数。



「……で、どどどうしたの智花」



「もー!気付いてたんなら挨拶!はい、おはよ!」



智花は肩に付くか付かないか位の少しだけ明るい色の髪を揺らしながらペコリと頭を下げる。


「きき昨日も言ったと思うけど、ぼぼ僕には」



話しかけない方がいいのだ。

それに智花はこの駅は使ってないはず。なんでこんなとこにいるんだろうか?



「正直ちょっと考えたんだけどさ……シューゾーチームの方がどう考えても楽しそうなんだよね」



ニヒ、とハニカミながら照れ笑いを浮かべる智花。

考えるのは当然だ。誰も智花を責めたりしないし僕だって立場が違えば僕なんかに関わらない。


……ん?


「しゅしゅシューゾーチーム?ってなななに?」


「あ、えーと。まず美人だけどいろいろモノスゴイお姉さんでしょ?」



確かに姉はいい意味でも悪い意味でもモノスゴイが……智花は姉といつの間に面識を持っていたんだろうか?そんな僕の疑問をよそに智花は楽しそうに指折り数えだした。



「梶先輩に柚木先輩の強面モデルコンビ。ちっちゃくてかわいい理子ちゃん……あ、ついでに藤崎」



ゴリやユズキカナは、まあ見てくれだけはいい。見栄えはする。ゴリはデカイし。ユズキカナはスタイルがフィギュアみたいだし。

藤崎は男気溢れるイケメンだし理子は確かにカワイイ。理子に関しては正直不安要素がありすぎて何ともいい難いが……反論するのもおかしな気がしたので黙っていた。


「……」



しかし。

チームというにはあまりにも数が違う。

なにと違うかって?全校生徒と比較して、だ。イジメの対象になるってのはそういうことなんだと思う。


「なんかすごくないこのメンバー!?『華やかな高校生活』が待ってる気がするんだぁ……シューゾーくんの近くにいれば退屈しなさそう!」



……勘違いである。

僕はそのチームの中にはいないのだ。確かにやつ等は華やかなリア充なんだろうが僕は対人恐怖症のヘタレオタクで。


多分ゴリやユズキカナだって僕みたいなヤツとチーム扱いは心外だろう。智花は明らかにすごい勢いで勘違いをしていた。



「いい、いいかい智花。ぼぼ僕はそいつらとは」



げし。


言いかけた瞬間、背中に重たい衝撃。


「おうコラ」


「いい、いきなり蹴っ飛ばすのがやや野生のシキタリなのか!?いい言っとくが僕はかかか弱い現代人で」



「てめえがイカレてんのはお見通しなんだよ、ひ弱ぶりやがって。朝からナンパしてんじゃねえ。邪魔だ」


突然現れたゴリは僕と智花を嘗め回すように上から下まで視線を這わせる。


「あ……お、おはようございます梶先輩!」



僕にしたお辞儀の3倍位の角度を付けゴリに頭を下げる智花。



「理子にフラれたからもう次か?なんだてめえは。ホストか?ヒモか?」



頭を下げる智花を無骨にスルーし僕に詰め寄るゴリ。朝から胸焼けするような圧迫感だがエヅいてばかりもいられない。



「せせ性欲がエゲツナイのは、あああんただろ。繁殖ならああアフリカの大地でやってくれ」


「……てめえいつかヤルからな。精々カラダ鍛えとけよコラ」



じゃな、とゴリは背中を見せる。


「えぇと……」


「智花です!以後よろしくお願いします!」



頭を下げる後輩は無視できなかったのか『おう、よろしくな』と智花に声を掛け去っていくゴリ。

なんだその笑顔は薄気味悪い。



「梶先輩と仲いいよねえシューゾーくん」


「……」



そんなわけがない。



「梶先輩ってあんまり笑ったりしなくて、ヒト嫌いって評判なのに。いいなあシューゾーくん」



智花の勘違いはどうやったら正す事ができるのか。

僕はソレだけを考えながら学校へと足を向けた。




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