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ベクトルマン  作者: 連打
62/189

〔リコ編〕またネ

「……興奮してるとこ悪いけどさ」



理子のクラスの男子生徒が穏やかに声を発する。

僕はと言えば……



喉カラカラ。

興奮ってか、ヤケクソ?

静まり返った合唱会場の雰囲気も僕の冷や汗を増産させていた。


「センセンフコクって、何のこと言ってるんだ?君何組?」



誰が喋っているのかわからない。壇上に並んだ理子のクラスはそのカタチを保ったまま……その塊がまるで一人の生徒のように『口の部分だけ』が機能を果たしている。



「ぼぼ僕が何組だろうと!僕は!おお、おまえら…」



「暴力ってことかい?……困ったもんだね」



どしゃどしゃと僕に冷水を浴びせる『口』。

相変わらずどこにいるのか判断付かないが、その言葉は冷静そのもの。


僕は垂れてきた鼻血をすすりながら足の震えを堪える。関係ない。僕の対人恐怖症なんざ関係ないんだ。



「君が僕らに何の不服があるのかは知らないけどさ、例えば誰かが僕らに危害を加えられたとして……一体どうするつもり?」



流暢に喋りやがるなあ。シンとした無菌空間に垂れ流されるいやみったらしい遠まわしな物言い。

そうだそうだ。たしかにこんなんだったよ。


・・・・・・・・・・・・・・・

おまえらはいつもそんなんだった。



「やや止めさせる」



「止めなかったら?」



「止めさせる」



「へえ」



クスクスと。


なにがおかしかったんだろうか?

理子のクラスの生徒は……申し合わせた訳でもないんだろうが、全く同じタイミングで


その『塊』を小刻みに揺らした。



「何もしてなかったとしたら?何を『止めさせる』んだい?誰を糾弾するのさ?」



声が変わっていた。


いや


僕は一人と話していたか?こいつら……は。



「殴るのかい?誰を?」


僕は一体誰と話してるんだ?


「ひとりづつ?君が片っ端から粛清していくの?」



クスクスと。

嘲笑の隙間から漏れ出す疑問。不思議な違和感。なんだろうこれ?

薄暗い会場の中に在って、足元がぐるぐる溶けていくような不安。


特進クラスのやつらも今は沈黙。様子見。


クスクスと。ただ僕の周りを漂う小さな嗤い。



いやいやいやいや!

僕は何の為にココにいるんだ!?

このバカヤロウの塊をコッパミジンコに粉砕せんが為!その為だけに僕は!

冷や汗掻きながら声を張り上げての宣戦布告!かーらーのーっ!!

       

         ベクトルマン爆誕!!


『僕VSバカ共』の目まぐるしくもせせこましい戦いの果てにあるのはキボー!!粉砕のちヘイワ!!

ダイダンエンの押し売りが結果であるべきなのだ!!

そうですよね倉成のアニキ(詳細は語らないが)!!


  



    クスクス



       クスクス




クスクス




      クスクス






「じゃあ……」



何も言えない僕に掛けられる『口』からの言。


なんだ?

なんでだ?

いつから?


浮遊感に眩暈がした。疑問符が他人事のように目まぐるしく点滅する。

僕は……僕が違うんだろうか。

何が?

何が違う?

間違ってた?



 ・・・・・・・・

「行こうよ楠木さん」



その声を機に楽しげに移動を始める塊。クラスの中心に、理子。

違和感は視線だった。

理子が僕を見る視線。



「あの汗かきは友達なのかい?変わってるね」


『口』は理子に親しげに声を掛ける。涙でキラキラしていた瞳を嬉しそうにすぼめ。


振り向き。




「新木……くん、またネ」



そう言った。

理子は僕の目を見ていなかった。僕が乱入した時から。いままで。今も。



「……っ」




孤独は辛い。



そんなの分かっていた。僕が分かんなくてどうするんだ。

理子はもう限界だったんだ。

もっと早くこうするべきだった。遅い。

致命的に遅かった。

理子の過ごす時間は僕と居る時間なんて微々たるもので。ほとんどはクラスで過ごす、当たり前だ。

今理子は嬉しいんだ。


やっとクラスの仲間に入れた喜びを笑顔で真っ直ぐに表しているじゃないか!!



だから



笑え。



思い通りの結果じゃないか!!

『塊』からチラチラ僕に向けられている視線、アレは標的が変わったことの合図。

ざまあみろ!だ!

シテヤッタリだ!

理子は多分もう大丈夫だろう。

なーに、回覧板みたいなもんだ。

次は僕の番。

それだけ。



「……」


アレ?

いやいや、まあ確かに僕は失語症持ちのヘタレオタであるし珍しい事じゃあない。

いつものことだ。

喋れなくなるなんてのは、平常運転。ホントホント。

でもなんか言わないとなあ。『オチ』ってやつ?このままどうやって壇上降りたらいいかわかんねえし。盛大な空回り。失笑もんの立ち回り。



「り、リコ」


全然出ない。声、出ない。

どんどん遠ざかる『塊』。その中心の理子は溶かされてないかなあ。

聞こえて無くてもいい。から。出せよ。








出ろ。声。










「待たせて、ご……ゴメン」








僕は自分の足元に言葉をぽとっと落とした。

たた、とまた鼻血がつま先を赤く染めたが……その赤以外の景色は全部真っ黒に見えた。






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