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ベクトルマン  作者: 連打
61/189

〔リコ編〕……おおう


「おせえよ!」



「暴れる寸前だった!早くなんとかしろ!」



「助けてやれ!オイシイなおい!」



「ベクトルマン!彼氏まだ出来ないよ!」



「のんびり鼻血出してんじゃねえ!走れ!」




ばっしんばっしん遠慮のかけらも無く僕の背中を叩く受験生という名の暴君集団『特進クラス』。

奴らは恐らくこの学校で一番自由でタチが悪く……故に巻き込み甲斐もあるというものだ。


「……」


薄暗い会場をまっすぐに進む。鎖がなくなったバカ犬のようなあのクラスを除けば声を発している生徒はほとんどいない。やはり藤崎はイケメンだったようで、教師の姿も全く見当たらない。

サスガだ。



ゆっくりと壇上へ。


「……」



そうコレコレ。免疫って言えばいいんだろうか?

『異物』に対するカウンター、集団心理そのものが棘となって僕の身体に容赦無く刺さる。

その他大勢、モブキャラたちの同調圧力。僕が憧れた大多数という名の圧倒的権力バランス。



その中でひとり。

ずっと豪雨に晒され続け、だんまりで耐えてきたちっこい室内犬のような女の子。


「ぁ……しゅ……ぞ、う君」


顔を伏せ悟られまいと。


僕を見たその目は赤く、深い寂しさがぽろりぽろりと溢れていた。


スカートを握り締めた小さな拳。


乱れた前髪。


硬く閉じられた唇。


小さな身体をより折り畳んだような佇まい。


「だ……ダメだよ、まだ……私たちのクラスの……合唱……」



キンと張り詰めた空気の壇上、理子のクラスの生徒たちは明らかに異物を排除せんとする眼差しを僕に、そして理子にぶつける。



「はやく、おりてシューゾー君……まずい、から」


演奏なんかとっくに止まっている。そして誰も合唱なんかしていなかったじゃないか。

理子は僕の背中に両手の平をつき、ぐいぐいと押す。


「じゃ、までーす。帰ったかえった」


特進クラスも静まり返っていた。その他大勢の目にはさぞ僕や理子が痛々しく映っているに違いない。

公衆の面前で『いじめられっことその友達』が傷を舐めあい肩を寄せ合ってプルプル震えてるように。


滑稽か?そうなんだろうなあ。


んでもさ。


「……」


さっきからずっとぐいぐいと背中を本気で押し続け僕を退場させんと頑張っているこの滑稽な女の子は……こだわったんだ。

誰にも迷惑をかけまいと、ひとりでなんとかしようと。きっとそのうち笑って思い返せる思い出になると信じて。世の中に悪人なんかいないって本気で思っていたのかも。



こだわって、頑張ったんだ。


理子は一人で頑張った。


次は僕の番である。


話すのがニガテ?


人前が嫌い?


注目されると足が竦む?


ぷ。



ぷぷぷ。




「うははははははははははははははははっ!!!!」


なんだそりゃ!


関係ない!僕のチキンっぷりなんか全く!これっぽっちも!

またいじめられるのが怖いってか!?そんなわけないね!!ヘソでお茶がグラグラ沸騰するよ!!


「しゅ、シューゾー君?」


おおう!!助けにきた相手である理子にまでドン引きされておる!!

お腹痛いお腹痛い!!


「うはははははっはははははははははははっ!!!!くるし……」



おおーう!!その目!!その『うわwマジキチwwww』的な恐怖と好奇心の入り混じった第三者を自覚している奴特有の突き放したような視線!!

僕知ってる!その目知ってる!!


『自分は善良な一生徒』だって思ってる奴の無責任eyeだ!自分がいじめに加担してるなんて夢にも出て来ない一般ピーポーの枕はさぞ高く、その睡眠は快適空間なんだろうなあ!!うらやましい!!まったくウラヤマシイぞこのやろう!!



「……先生は?」



  「なんだよコイツ」



      「きたね、鼻血でてんじゃねえか」



  「なんで先生だれもいないの?」



ざわざわしだした!!教師なんかいないし!!

権力にたよろうなんざカタハラ痛い!壇上のざわざわは会場全体に伝播するのに時間はいらない。

無法地帯の真ん中の僕は完全に『異物』。


僕は憧れた『その他大勢』を全部まとめて敵に回す。後悔はない。いやマジでないよ。いやホントホント。な、泣いてなんかないんだからねっ!!



「ばば……ば……」



決別。なんの取り柄もない、オタの僕は悠々自適な高校生活とバイバイする。

うざ。キモ。DQN。そうでしょそうでしょ。

僕だってそう思う。わざわざ違うクラスの壇上で高笑い。救急車呼ばれてもおかしくないレベル。

僕だって「そっち側」にいたら間違いなく舌打ちしてたよ!!ああ!!僕はその程度の小心者だし、自覚だってある!!



でも




   逃げる

   逃げない ←



分かってる!



   逃げる

   逃げない ←



分かってるよ!しつこいぞ!!




   逃げない ←

   逃げない ←





……おおう。選択肢が一択に。



「ば!……バカヤロウの!!この学校のばば、バカ共であるおまえら全部に告げる!!!!」



いきなりの僕の絶叫に静まり返る会場内、目がテンの理子。

さあいけ僕!!言ってやれ!!玉突き事故のようにみんな巻き込んでやるのだ!!





「ぼぼ僕は!!おお、おまえら全部に!!宣戦布告する!!」





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