〔リコ編〕同じ笑顔(カナサイド)
ふわふわと。
頭の中が覚束ない。
「……」
死んでた。
当たり前だ、ここって屋上なんだから。
落ちたら普通死ぬ。死ぬでしょ。死ぬよね。
シューゾー……死んでた。
「……」
なんで?
なんでシューゾーは、去り際少し笑っていたんだろう?
だってギリギリだったんだよ?
ひとひとり片手で放り投げる、なんて梶にしか出来なかった。でも。
あの時『いつ風が吹くか?』なんて梶が知ってる訳ないし、煽られたシューゾーですら不測の事態だったはず。
カチカチと……歯が噛み合わない。
「…………」
ざり、とあたしは埃と砂利だらけの屋上の床に手のひらを伸ばす。『感触』が欲しい。
ふわふわとしたあたしの頭の中を占領しているあの……シューゾーの笑顔を消したかった。
意味がわかんない。
なんであそこで笑顔なのか。
……怖い。
「完全にイカレてんなあいつ。見たかあの目」
梶はあたしに声を掛けているのだろうが、あたしは今頭が回らない。
「死に掛けた自覚が無いって訳じゃないだろうに……寒気がしたぜ」
なんで?
なんでシューゾーが死ななきゃなんないの?
なんで屋上から落ちなきゃなんないの?
なんであんなに普通に去って行ったの?
なんで?なんで?
「……なあおい」
わからないわからない。
シューゾーが……死んだら、あたし……あたし。
わからないわからないよ。なんだよコレ。体に酸素を意識して取り込まないと入っていかない。
苦しい。息が……苦しい。
「最近お前……『バイト』行ってねえらしいな」
アレ?
なんであたし泣いてんだ?
結局何事もなかったって言うのに、無事だったんだからいいんじゃないの?
「……カナ、厄介事になる前に縁切れよ」
う……うるさいな。今そんなことどうだっていいの!考えらんないって!
「……あ、あんたに言われなくても……そのつもりだよ!」
それだけ言うのが今のあたしの精一杯だった。ずっとへたり込んだままのあたしはまだきっと立てない。力が入らないのだからそりゃあ、立てないって。
「なんか、お前……変わったな」
「え?」
「いや、なんでもねえ」
よっこいしょ、そう言って梶はあたしに背中を向ける。
「……どこいくんだよ」
あたしは怖かったんだ。だから梶に声を掛けた。必死で。
ひとりでここに置いて行かれるのが怖かった。
ここの青空も風も、シューゾーの笑顔も。全部怖かったんだ。
「バカヤロウを手伝ってくるわ」
「ちょ……梶?あんたナニ言ってんのよ……」
なんで?
あたしはなんで?
「負けたからな、勝負」
しゃーねーわ、って呟いた梶。ざりと響く梶の足音。埃は風に舞い雲はゆっくりカタチを変えていく。
小さくなっていく梶の背中を凝視しながらあたしは
なんで梶はシューゾーと同じ笑顔をあたしに向けたんだろうと……考えていた。