まあまあ
「すっかり懐かれちゃいましたね!」
最悪だ。最悪のスタートだ。
僕の初登校の風景は暗雲立ち込める見るも無残な大敗北となった。いや、なっている。今も。
ニコニコと僕の横から付いて離れないウーマン。これはコスプレでは無く本物だと……同じ学校の生徒なのだと気付いた時には僕は完全に好奇の目に晒されていた。
新入生の癖に女連れで仲良く登校。僕の頭には偶ににゃあと奇声を発する小動物。感慨も何も無い、僕の背中はじっとりと汗でシャツが貼り付き赤面症は出っ放し。自意識過剰だとの自覚はずっとあるのだがやはり僕は極端に『他人の視線』が苦手なのだった。
「……で、どどうするんですか?」
ウーマンの目を見られない僕はうつむいたまま首の後ろを掻きながら問う。しっぽがあたってこそばゆい。
「うーん、どーしよっか。飼えない?」
おいおいおいおい。丸投げ?バシッと言ってやれ。この三次元の悪魔に誰が一番偉いのか分からせてやるのだ!!
「飼えない……とお、思う」
無理!!顔もまともに見られないんだよこのやろう!!オタなめんな!!
「そっか。ちょっとごめん」
えい、と軽々しい掛け声と共に僕の前方に駆け寄るとウーマンはいきなり抱きついてきた。
……抱きついてきた?
「□#$!&ッ!!??」
「ちょっと!暴れちゃだめだよ!」
痴女!?リアル痴女!?どこにフラグあったの!?いつの間に踏んだ!?
唐突過ぎるだろ3次元!!脈絡の無い接近イベントはクソゲー扱いされても甘んじて評価を受けろよ!今回はお布施として諦めるけど今度また同じバグモドキのクソフラグたてやがったら……
「はい捕まえた!あたし職員室行って放課後までこの子預かってもらってくるね」
「積みゲー行きだこの……え?」
ウーマンは僕の頭の上の小動物を大事そうに抱え僕の目を見てニッコリ微笑んだ。不意打ちに噴出す汗。高まる鼓動。息苦しい。
「助けてくれてありがとね!」
「あ……あう」
僕の手のひらを一回握ったウーマンは満足そうに校門へと走り去っていった。
途端ギュウっと視界は開け周りの景色が鮮明に浮かび上がる。
思い出したよう酸素を取り込むと頭の中を洗濯機に放り込んだような新鮮な気分に浸った。
澄んだ音色は金属的な剛健さで僕の耳をくすぐる。そこかしこで息を切らせ走る生徒たち。被せる様に響く、おそらく教師たちであろう大人たちの叱咤。
そして僕はようやく気付く。
完全に入学式に遅刻したことに。