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ベクトルマン  作者: 連打
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〔リコ編〕忙しいからね


僕はジリジリと屋上の縁を後退する。

どっちに後退かって?そりゃああれですよ、まっさかさまの方ですよ当たり前じゃないですか。


「シューゾー!?あんた……冗談にしたってタチ悪いよ!」



ソレホドでもない。世の中タチの悪い悪夢のような冗談なんて山ほどあるのだ。



「しょ……勝負、わわ忘れるなよゴリ」



どっちにしろ理子は大丈夫なんだ。僕がここから落ちたってゴリや姉、ユズキカナだっている。矛先だけ、ちょっとだけズラしたら僕はゴマンエツなのだ。

ヒト一人憎み続ける、なんてのは並大抵の覚悟じゃ不可能。ましてや理子である。こりゃあもうムリゲーだ。

そこまで業の深い奴はいない。



「……。てめえが何をしてもしなくても……こんなしょうもないイジメなんざ長続きしねえよ」



おおう。

ようやく語りだした。やっと意見ノベ始めたなゴリ。

学校の屋上に猛獣の置物おいてあったらビックリするじゃないか。うごけうごけ。



「何度も言うが、俺が原因なんだよ。理子にも悪いと思ってるし……てめえにだって」


「いや、あああんたに謝って貰う理由がない」


「俺のせいで……要は逆恨みだろうが。俺は」


「サカウラんだのはああ、あんたじゃないじゃないか」


「そりゃそうなんだが……」


「あんたのざざ罪悪感は、その2年のメンヘラにとととっとけよ。ぼぼ僕はそんなもん、いらない」



罪悪感ってのは胃にもたれそうな気がする。




お?


なんだその顔。文句あんのかこの筋肉ライダーめ。

プルプルプルプルと小刻みに、この強風の中突っ立っておる!もうあれだ。こいつの今を例えて言うと……


だめだ!シモネタしか思いつかないカラ!このドエロ!ドエロゴリラ!!


「シューゾー、あんたさ」


おおう!

居たのかユズキカナ!とっくに風でどっか飛ばされたのかと思ってたよ!




「もうちょっと……梶の気持ち考えてやりなよ」


まるで財布落としたような表情で僕に声を掛けるユズキカナは




…………。



……………………。





「……?」





「ひ、ヒトの気持ち考えろっていってんの!!よく聞こえなかったんならそう言ってよね!!」



いや、なにしろこの風なもんで……ごめんなさい。そんな真っ赤な顔して怒らなくても。

ともあれ今日はいい天気なのはイナメナイ事実、大声も出したくなるってもんか。


「梶だって好きでやった事じゃないんだよ!?シューゾーは理子っちの事だけ考えてるからそこまで気が回らなくなってんだよ!!」


必死である。

目を見開き瞬きすら惜しむように僕を睨むユズキカナ。どうやらユズキカナの頭の中では



    理子<メンヘラ



になっているようだが、いまいち僕には分からない。

大小ではない。

程度の問題でもない。

僕は……



・・・・

関係無いって言ってるだけなんだ。



なんでわかんないかなこの進学校の3年生共は。



「っ!しゅーぞうぅっ!?」


ふわりと背中を風に撫でられた僕は体の軸が大きく振られ、既に片足は地に着いていなかった。

耳のすぐ横に風の壁があるようにビュービューと音を遮っているので、こちらに駆け寄るゴリやその場に縫い付けられたように固まっているユズキカナが何を言っているのかはよく聞き取れない。



いやまあ……ねえ?



   理子<メンヘラ



であるなら



   僕<理子<メンヘラ



であっても不思議はない。

ミクロでみてもマクロで眺めてもマクロスが変形したって、僕が理子より上等な人間であるなんて事はない。

全然ない。異論も無いし不満も無い。


理子を放っておけず、だからといって僕ひとりで出来る事なんかも、無い。

みんな巻き込んでやる。そして……


この勝負はやっぱり僕の勝ちだ。



「どあほうがあぁあっ!!」



僕に駆け寄ったゴリは屋上の縁に土踏まずを押し付け腰を落としながら素早く僕のベルトを掴んだ。



「ぐ……あああぁぁ!!」



おおう。なんて腕力。

ゴリは自分の足を軸に僕をぐるんと引き戻し、屋上の砂利だらけの床にブン投げる。って痛、いたたたたたた。ぞりぞりと僕の横顔から大根をオロスようなイヤな感触、着地って顔でするもんじゃないとおもうんだ僕。いたたたたた。



「コラアアっ!!」



痛がってる暇もない。

ゴリは僕の胸倉を掴んだ瞬間力任せに持ち上げる。つくづくなんて腕力してんだコイツは。



「ふざけんなよてめえ!!マジで死んでたぞコラぁ!!」



「ぼぼ、僕の勝ちだからな」



「はあ!?なに言ってんだてめえ!!」



ご、と不意に視界が無くなり後方に飛ばされる。しばらくまともに立ってないような感覚に襲われるほどさっきからあっちこっち……まったく忙しい一日である。殴られた衝撃でまた鼻血が吹き出たぞ。



「なんのつもりだ!!なんなんだよてめえ!!マジなんなんだよ!!」



さすがのゴリも息切れすると見えて、その肩は大きく上下に揺れていた。

僕は……行かなければ。

藤崎はきっとやってくれている。なんせイケメンなのだから。イケメンは期待は裏切らない。

僕は大げさに見える鼻血を拭うと久しぶりに地に足を着ける。


おおう。力入んない。



「マテやコラぁっ!!」


僕の背中にDQNボイスをぶつけるゴリ。でも、ビビったりするのは今度にして貰うことにしよう。僕は忙しいのだ。

そして……それはこのゴリもおなじこと。


「おいてめえ……」


「はは早く来いよ、ぼ僕は先に行ってるから」


「ぁあっ!?」


「いい忙しいんだ。ああ、あんたも協力してもらうからな」


「ふざけんな!!ふざけんなよクソヤロウ!!」




だって



僕はゴリとの勝負に勝ったんだから、当然である。



「……おいっ!!待てよ!!」



この際ゴリのキムタクの物まねはスルー。

忙しいからね。



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