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ベクトルマン  作者: 連打
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〔リコ編〕何の関係があるんだよっ!(カナサイド)


「な、なあ。どこまで行くんだよ。もう合唱始まるって」



あたしの前を歩くシューゾーと梶。緊迫した空気で声を掛けるのも躊躇ったが、掛けてみたところでやっぱり反応はなかった。

先頭のシューゾーは終始無言で階段を上がる。追随する梶、んであたし。

ついてった所ので何も出来ないんだろうけど、ほっとく訳にも……なあ。


「どこまで行くんだよコラ。てめえがタコ殴られる場所なんざ何処だって一緒だろうが」



苛立ちを隠さない梶は、でも静かにシューゾーにそう告げた。

冷静さに迫力を混ぜる、なんてコイツホントに慣れてる。正直怖い。あたしの周りにもこういうヤツらは居るには居るがこの学校では見たことない。

夜の街の空気に触れている気がした。



「だ、黙ってつつ、付いて来い。あんたは、あ、あ、アホウのように僕のケツに付いてくればいいんだ」



ひやああああアっ!?……なに!?なにいっちゃってんのよシューゾー!?

ずっと前を向いてるから顔は分かんないけど……声、思いっきり裏返ってんじゃん!!



「けっ。てめえ、マジで後悔すんなよ」


梶は嗤っていた。昏い、底冷えのする嗤い。こんな梶は見たことがナイ。余程廊下でシューゾーに言われたことが腹立たしかったのか、いつもの梶じゃない。


「か、梶?もうやめようよ。あんたこんなヒョロッチイガキ相手にしたことないでしょ?……ほらシューゾー!早く謝っちまえって!」



ぱたんぺたんと階段を登る足音は止まらない。それどころか


「カナ。何しに来たんだてめえ。邪魔すんじゃねえよ。消えろ」


「そそ、そうだ。僕はここ、このエロゴリラを成敗するんだ」



なに言ってんだシューゾー!!あたしはあんたを助けようとしてんだよこのバカ!!

あんたが怪我すんのイヤなの!!あんたが梶に敵う訳ないじゃないよ!!



不意に突風、日光。

随分長いコト登っていたらしく、屋上に出てしまったようだ。


べこべことした足元。長らく人が出入りしてない校舎の屋上は雨風にさらされ放題になっており細かい砂利や剥がれたアルマイトが散乱している。

二人は無言で屋上を進み、あたしも所在無く付いていく。



「……ま、人目はねえな。上出来だ」



ポケットに手を突っ込んだまま梶は呟く。



「覚悟しろよ。俺は機嫌が悪い。ものすごくな」



屋上の遮る物の無い風に煽られながら梶は不意に空を見上げる。

ゆっくり流れる雲、覗く青い空。あたしもつられて見上げると、なんか……



気持ちのいい、

少しだけ風の冷たい……


晴れた午後だった。



…………。



「なあ」



梶は空に呟く。



「どういうつもりかは知らねえが……いや……なんなんだホント?」



梶は空を見上げたまま呟きを続ける。



「俺が悪いんだ、全部」



冷たい風の中、あたし達3人はゆっくり歩きながら晒され続ける。



「昨日あいつの家族に聞いたんだが、あいつは、もう子供産めない身体なんだそうだ。一度の堕胎じゃ珍しいらしいんだが……そういうこともある、らしい」



…………。

『あいつ』とは梶が付き合っていた2年の女生徒の事だろうが……。



「元々身体の弱い奴なんだが、ココロも強くなくてな。別れ話の後リストカットもしてた。毎日だ。死にてえんだと」



…………ちょ。



「俺は……正直、心から好きだったかって言うと……わかんねえってのが本心だ。最低な男なんだ」



事態は深刻だった。

単に別れ話が拗れて揉めていた訳ではなかった。



「全部昨日知った。俺が会いに行かなきゃあいつの両親は俺にこのことを言うつもりは無かったんだと。逆に励まされたぜ。『君は君の人生を』ってな。……効いたし、キツイな」



さっきより高く見える空は、相変わらずの青。

こんなに清々しい午後に……あたしはなんのハナシを聞いてしまっているのか。冷たいはずの風が遠慮なく頬に当たっていても何も感じない。



「俺は……」



梶が何かを言いかけ、シューゾーの背中が停まる。



「……だから」



ゆっくり振り返るシューゾーは、しかし冷たい風を跳ね返す力強さで梶とはじめて向き合う。



「俺は」



呟く梶の言葉を打ち消すように、シューゾーは



「だから!!」



そう言った。



「そのメンヘラオンナと!!理子が!!」



シューゾーは梶の胸倉を乱暴に掴み

そう言った。



「何の関係が……あるんだよっ!!」



吹き抜ける風。

ゆっくり流れる雲。

穏やかな春の午後。



あたしは屋上で……なにも言えずに突っ立っていた。






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