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ベクトルマン  作者: 連打
51/189

〔リコ編〕巻き込め!

「ほら、ちょっと上向きなさい」


時間が経つにつれジンジンと鈍い痛みを放つようになって来た擦り傷や打ち身。目ざとくソレを見つけた姉はリビングで僕の手当てを申し出た。

断る間もなくズラリと並べられる消毒、絆創膏、シップ。一体どこに隠していたんだ?今までこんなもん見たことないぞ。


「弱いくせに、バカね」


どんな了見だかワカラナイがなぜか姉は上機嫌。鼻歌まで飛び出す始末だ。こういう時の姉の対処を未だにワカラナイ僕は黙って姉の鼻歌を聞くしかない。


「~~♪」


怖い。早く終わってほしい。下手なこと言ったりしたらそのまま傷口抉られるかも知れない恐怖。野生のサルに「ウッキー」とか言いながら目の前で手榴弾をお手玉されるような不安感。もう逃げたい。


「ああのもう……」


「なによ。お姉ちゃんが信用できないの?」


おおう。おおおおう。

こちとら昨日今日あんたを見てきた訳じゃねーんだよこの分裂症オンナ!信用なんか出来るか!!何笑ってんだよ!!実は今猫でもふんずけテンじゃねーのか!?サイコだサイコ!!


「ただいま」


玄関の扉が閉められる音がする。変人・父は最近帰りが妙に規則的になってきていた。以前はいつ帰ってきたのか分からなかったもんだが、変われば変わるもんだな。


「ん?」


僕の顔を見るなり怪訝な表情を浮かべる父。


「おかえりおとーさん♪」


おおう。音符付けられる度にテロにあった気がするぜ~。


「ああ、ただいま……ていうかなんだこの棒人間は」



…………。



♀←?


「ああこれ?ケンカしてきたらしいのよ。だいぶ顔腫れちゃってるみたい」


「ケンカ?コイツが?これはこれは」


ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら上着を脱ぐ父。リビングの椅子にドッカとケツを乗せ、たっぷりの重鎮な『間』を取った父は僕に向かって


「セーシュンか?」


と呟いた。


「タタカッテきたのか?」


グラスに緑茶を注ぎ口を潤す父。その間は僕に視線を寄越さない。


「アイツがユルセナカッタのか?」


…………。


「ちょっとお父さん!周蔵がケンカなんて初めてなんだから!」


姉は父を諌めると絆創膏をピッと貼って「はいおしまい」とにこやかに僕に告げる。

かたかたとテーブルに並べられる皿、それを適当に配置しながら箸を配る父。不自然なニコニコ顔の姉。

とにかくご飯を食べよう。そうしよう。


「で?」


「?」


不意に合った父との目線。まだ僕に言いたいことでも……


「アツイねー」



…………。




……………………。



「ちょっと周蔵!?ナイフ危ないから下しなさい!!お父さんも茶化しちゃダメ!!」


このクソオヤジ黙って聞いてりゃ人が気にしてた事をずけずけとおおぉっ!!こっちは思い出すだけでアタマ抱えそうなんだよ!!高校生の若い過ちぐらい見て見ぬフリすんのがオトナだろうが!!


「やあすまん棒人間。つい、な」


反省してんのかよダメオトナ!!


「ただなあ、暴力で解決することなんてのは……世の中一個もないぞ」


「……わわ分かってる!」


姉にナイフを取り上げられ残念だが席に着いた僕。僕はいつかこのバカヤロウが、シャレにならない社会的制裁を加えられる場面を想像して心を落ち着かせる事にする。


「人間なんて皆自分勝手に生きてんだ。気に入らないからってケンカしてたら身がもたん」


いただきますと短く呟きおかずに手を伸ばすバカヤロウ。


「でもさ。正邪の区別は必要でしょ?お姉ちゃんは周蔵が正しいと思う」


おおう。いちいちビビるぜ~。

姉は味噌汁をすすりながら父に問う。


「ま、古都のように徹底抗戦もアリなんだが」


父の含むところはなんとなくだが分かる。誰もが姉のように出来ないのだ。自分が特殊だとイマイチ分かってないなこのイノシシは。


「現に解決はしてないだろ?」


ご飯をかき込みながら器用に僕を見るバカヤロウ。悔しいがその通り、なんの進展も無かったから何も言い返せない。


「そんなコト無い!これから反撃のノロシだもんね~」


姉が気味が悪いほど味方してくれるが、はっきり言ってそんなつもりは無かった。

あのときの僕はただ……ムカついたから殴っただけ。これじゃあDQNと変わらない。これじゃあダメなんだ。


「ど……」


僕を全く見ず淡々と食を進める父。こいつに聞くのは不本意だが。


「どどうすれば、いい?」


「知らん」



…………。



……………………。



「周蔵!?ああ危ないから包丁はダメ!!貸してっ!!」


「#$%&&@:;%$っ!!」


このクソヤロウっ!!すいすいかわして避難してんじゃねえっ!!


「いいか?お前には力も知恵も無いだろう」


うるせえ!!んなこと十分承知してんだよ!!っていうか逃げながらメシかき込んでんじゃねえ!!


「だったら、巻き込むしかない」


「なななにをだよ!?」


「ちょっと周蔵!!危ないから!!渡しなさい!!」


姉が僕に縋りつく。家庭内暴力の引き金ってのは身近に転がってるんだなあ……くっ、まだメシ食ってやがる!!


「全部を巻き込め。主流本流、言い方は何でもいい。どんな問題でもそうだが本質を変えるには端でポカポカ小競り合いなどしてる暇はないはずだろう」


「っ!」


「自分の問題として捉えるんだ。外野は所詮外野でしか無い。だったらど真ん中で周りを振り回せ。そのほうが」


楽しいぞ、と父は茶碗を置いた。


「もう!!周蔵は今後刃物禁止!!」


僕から包丁を引ったくり食事を再開する姉。突っ立っている僕。


「お父さんも!それは一般論でしょ!今回ちょっとややこしいんだからヘンなこと吹き込んじゃダメ!」


「そうだな。結局どうするかはお前次第だ」


「……」


僕の肩をポンと軽く叩き自室へと引っ込む父。やはり、突っ立っている僕。

まだ僕に出来ることがあるんだろうか?そんなことしか考えてなかった。


「……」


理子の問題を解決するんじゃ……ダメなのか。


・・・・

僕の問題として……


「周蔵?」


僕はテーブルに着き食事を開始する。

口の中の傷が飛び上がるほど染みたが、これは記念の痛みとして覚えておこう。

元々暴力なんかに頼るタチじゃないのにバカをさらしたバカ記念日だ。

前回でなんとなく脳裏に焼きついていたアタマのおかしい思想家の娘のようなことをちょっと思いながら。


僕はガツガツとご飯をかき込んだ。

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