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ベクトルマン  作者: 連打
50/189

〔リコ編〕洗濯物のように

むー。


あっけない。弱すぎる。

いや、逆に弱かったからこの程度の怪我で済んだんだろうか?

僕と藤崎は「殴り合い」というには余りにもお粗末な体たらくで早々にノックアウトされていた。

節々が痛むのでなるべく動かずに寝ていたら窓の外はすっかり暗くなっており、部活動の掛け声も聞こえなくなっていた。


でもまあ漫画のように都合よく気絶したり、上手にパンチが当たるなんてことは無いんだなあ。ほとんどが揉み合い投げあいの柔道部の新入生のようだった。


「新木?」


教室の反対側から声がする。随分遠くで殴られていたんだなあとヘンに感心した。

しかし歩いてくる気配は無い。僕と同じで動くのが面倒なんだろう。


「新木さ……なんかたまにひっくり返ってたけど、あれなに?」


おおう。

見ていたのか藤崎。僕は周りを見る余裕など全く無かったが、ひっくり返ってた?ああ、あれか。


「さサマーソルトキック」


一発もヒットはせずしかも「ひっくりかえって」るみたいに見えてたのか。


「ストⅡ?波動拳とか?」


「は波動拳は……で出なかった」


「試したんだ、って」


いててと途切れ途切れの声を絞り出すような藤崎の声。ひっひ、と苦しそうに痛そうに。ちょっとだけタノシそうに藤崎は笑った。

しかし僕は笑う気にはなれない。結局理子の件をどうすることも出来なかったんだから。


「理子ちゃん……どうすればいいかな」


藤崎も同じ事を思ったようで声のトーンが落ちる。

生徒一人ひとりに説得して回る?そんな時間はない。というか、こんなアホらしい状況にもう一日だって理子を晒したくはない。でも一度に妙な噂を打ち消すなんてムリだ。下世話な噂ほど広まるのは早く消えるのは遅い。そりゃああのバカオンナが言ってたようにそのうち消えるんだろうが……クソ。腹立たしい。


「周蔵くん!」


けたたましく飛び込んできたのは智花だった。部活をしていたのかジャージ姿で息を切らせて机をガタガタと掻き分ける。


「血っ!血が出てるよ周蔵くん!!」


「いやあああのイテテ」


僕の前に屈みこむとジャージの袖で僕の顔を拭う智花。今さら血を拭かれたところでどうなるもんでもないんだがなあ。


「藤崎君!?なんで藤崎君まで血出してるの!?」


「なんでって……」


藤崎が居ることは知らなかったらしい。それにしても「なんで」、かあ。がっくりと肩を落とす藤崎には同情を禁じえない。男気のあるイケメンだけにその不遇な扱いは気の毒だった。


「智花ちゃんこそなんでここに?」


少々ふて腐れ感はあるものの藤崎は上半身を壁に預け体を起こした。


「クラス発表会の実行委員の友達が講堂で残っててさ、おしえてくれたの!なんかケンカしてるって、だから早くここから出ないと先生来ちゃうよ!」


「じじ実行委員?」


「明日じゃん!忘れてたの?」


そうだったか?正直ここんところそれどころじゃなかったからそんなお気楽イベントなんざボーキャクノカナタにすっ飛んでいた。のん気に歌ってる場合じゃないんだよなあ。

ほら立って、と無理やり引きずり起こされる僕と藤崎。なんとか壁を伝って廊下に這い出ると階段を四つんばいで転がるように下りる。僕だってこんなくだらない事で停学とかマッピラだったので必死である。


「藤崎、かっこ悪い」


「なんとでも言ってくれ。動けないんだからしょうがないだろ」


とうとう智花に呼び捨てにされる藤崎。階段の手すりに洗濯物のようにペロンと折り重なりツツーと滑っていくめげないオトコ。必死なんだろうが確かに滑稽だった。がんばれイケメン。その三枚目属性にカンパイ!


「でさ。周蔵くん」


なんとかなりそう?、と智花に聞かれ返答できない僕。

鼻血にまみれた僕の顔を見て尚そう聞いてくる智花はなぜか僕に期待してるように見えたが。


僕には何にも答えることが出来なかった。


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