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ベクトルマン  作者: 連打
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ネコリコ


少し学校からは離れた場所で姉と別れた僕はテクテクと彼方に見える校舎を目指す。

周りには民家以外ほとんど見当たらない。駅からもバス停からもいい具合の距離感を保つこの学校ははっきり言って不便だ。

偏差値の高さも手伝い僕のいた中学からこの高校に進学したのは二、三人だと聞いている。

公立の進学校であり制服も男子生徒は学ラン、女子は地味なブレザー。『質素は美徳』が校風のガリ勉ばかり集まる面白みのない高校。

なんせ文化祭や体育祭といったギャルゲー定番のイベントすらバッサリカットだというから学生に不人気ナンバー1との触れ込みも的を得た評価なんだろう。



……だがそれがいい。



まさに僕にとって理想的な学校だった。

『ひとりはみんなの為に』的な忌々しい作業が纏わり付く行事が全くと言っていい程ない。学生は勉強だけしてしてろ!細けえこたあいいんだよ!とがんじがらめの管理教育。私語のない授業。

ステキじゃん?


僕は別に頭がいい訳でも上昇志向が強いわけでもない。

そんな僕がこの学校に推薦で入学できたのは単純な理由が一個あるだけなのだ。


『勉強が出来る』んじゃなくて『勉強をする』から。

デブでオタクな僕の唯一の処世術。成績という明確な物差しは僕にとって『盾』であり『命綱』だっただけのハナシ。

陰湿で狡猾ないじめヒラエルキーは取り柄がある奴には矛先が向きにくいのだ。

当たり障りのない学校生活を送るために僕のような人種には能動的な努力が不可欠で、それがたまたま勉強だった。


だから予習、復習は欠かさないし決してそれを表に出さない。姉は単に成績が良かったんだろうが僕は違う。バカなりの努力が偶々うまくいった。そんだけ。


この学校のレベルに付いていく自信は全くないし、落ちこぼれたって構わない。

目指せぎりぎり卒業!このガチガチの学校で僕は人知れず息を潜めながら淡々と高校生活を過ごすのだ!


「……あの」


そんで訳の分からない大学にドサクサ紛れに滑り込み、行ったり行かなかったりしながらなんとなく中小企業に就職するのだ!


「あの……すいません」


結婚!?バカ言っちゃいかん!あんなものは情報弱者、……そう!情弱に任しとけばいいんだよ!ポコポコ子供生まれて養育費にヒーヒーあえぎながら目減りする人生を突きつけられてればいいんじゃないかな!だって僕の嫁は子供産まないもの!液晶というスィートホームで僕を待つ嫁は出産なにそれおいしいのだもの!


「あの!」


「ひっ!?」


びっくりした!びっくりした!


「あ、ごめんなさい。何度も声掛けたんですけど」


「……?」


「あ、……あの、ちょ」


ぐるんと振り返る僕。僕の後ろには用水路、そして田んぼ。案山子すら立っていなかった。しかし僕みたいなデブオタに女子高生が声掛けないよな。んなこたあ分かってる。こちとら何年モノだと思ってるんだナメヤガッテ。


「買いません」


「え?」


未だに姉以外に話しかけられると赤面してしまい、しかもメスとなると失語症まで併発する可能性大。しかし最近のキャッチは手が込んでるな。制服まで着込んでくるとは。

しかしあいにく僕はコスプレスキーでは無かった!はーっはっはっはっは!勝った!!


「絵なら買いません。は版画とかもま、間に合ってます」


僕は自分の革靴を凝視しながらきっぱりと宣言した。

……が、危ない!失語症が顔を覗かせている!




   たたかう


  →逃げる  



僕はくるりと踵を返し逃げ出した。


「ちょ!待って下さい!」


しかし回り込まれてしまった!


「なななななんなんですか!?そんなにノルマとかキツイんですか!?」


なんて職業意識の高いメスだ!若く見えるけど3人くらい子供育ててるのか?狙った獲物は逃がさない13のゆかりの者なのか!?トップセールスを挙げるのはこんなにも必死な作業の繰り返しなのか!?


「なんの話してるんですか!?」


「スゴ腕セールスウーマンの日々……」


「全く意味が分かりません!それより早く見てください!ほら!」


謎のウーマンは僕の袖をぐいぐいひっぱり学校からは逆方向へと誘導する。背はかなり小さいが天パーなのかシロガネ-ゼなのか、ゆるくかかったウェーブの明るい髪にカバンにぶらさがった正体不明のストラップ。謎のウーマンは細部にまで女子高生を再現していた。

このコスプレは見事と言うにヤブサカではない。こだわり気質はは好ましい属性だと思うんだ。


「あそこ!あれです」


何の木かは知らないし知りたくもないのだが、小動物が枝の先に乗っかっているのだけは確認出来た。


「降りられないんだと思うんです!」


異論は無い。子猫には良くあることだと思うしそれ以上でもそれ以下でもない。


「早く!」


えっ!?


「お願いします!」


……いやいやいやいや。木登りなんて。よく相手見てモノ言うんだなお嬢ちゃん。


「普通にむ、無理。僕があそこまで?僕のこのバデーを見ても……」


「?」


キョトンとするウーマン。固まる僕。


そうだった。


僕の愛くるしいミート・サブマリン(イミフ)はクサレ3Dに奪われたんだった。

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