表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベクトルマン  作者: 連打
48/189

〔リコ編〕それはダメだろ!!(藤崎サイド)

やめておくべきだったなあ。

僕は実際部外者だし、出しゃばって痛い目見ること無いよなあ。


「頼みがあるのよ新木君」


窓際にいた女のセンパイが新木に詰め寄る。見るからに気が強そうだ。腕組みして顔を軽く上向きに、新木の顔を眺める。背も新木より2センチ低いくらい。女子ではかなり大きい方だろう。


「たた頼み?」


新木は口調こそオドオドしてるのにやたらと毅然とセンパイから視線を逸らさない。意外に度胸あるなあ。見習わなくちゃ。


「ホラ」


ついと視線を泳がせるセンパイ。その先には廊下の窓があり多分位置的に中庭が覗ける。


「?」


「中庭で、あんたらお昼食べてたでしょ?あんた今でも一人でいるし。やめてくれない?」


なんだ?何の話なんだ?

僕は新木を見たが新木も良く分からないんだろう、訝しげな表情でセンパイを見ていた。ああ、そんな見たら失礼なんじゃないの新木!せめてなんか言ってくれ!心臓に悪い!


「よよく分からない」


「でしょうね。まああんたにしたらどこで食事しようとなんで私らに文句言われるのか分かんないでしょうけど」


「うん」


うんて!度胸があるのは分かったから、その不躾な態度はどうかと思うぞ新木!

黒板の前にいた3人の男子生徒が気だるそうにコッチ来るのは殴る?殴るために移動してくるの!?

窓から差し込む本来紅くて綺麗なはずの夕日がこんなに寂しく見えたのは初めてだ!むしろブルーだ!


「梶先輩とはどういう関係?」


新木に詰め寄ったセンパイは質問に質問を被せる。それにしても女子にあるまじき迫力。はっきりいって怖い。夕焼けが逆光になってその顔は影が差していた。


「か関係?」


アタマに右手をやり困った表情を見せる新木。仲がいいのは知っていたが改めて問われると新木自身にもよく分からないようで返答に窮している。多分友達なんだろうがセンパイを友達呼ばわりしてもいいものかと考えると僕だってうまく答えられないだろうなあ。


「今から言うことは秘密にしてもらいたいんだけど」


そう前置きした逆光のセンパイは新木の返事を待たず喋りだす。


「このコ、梶先輩と付き合ってたの」


窓際で動こうとしなかった女生徒の一人を促し、手招きして新木と僕の突っ立っている場所に誘導する。小柄で見るからに大人しそうなヒトだ。それに内気でもあるのか一度もマトモに僕らを見ない。


「……」


全く感心する。新木は沈黙を恐れない。迫力満点のセンパイに対していくらでも黙っている。

やはり新木は鉄の心臓の持ち主だった。部外者の僕が口を挟めないのとは違い、なにか凛としている。


「でさ、中庭で楽しそうにされると……ツライ訳。わかる?」


「な何が?ツライ?」


新木は本当にワカラナイといった表情で迫力のセンパイを覗き込む。眉間に皺をよせ首を傾げ。

センパイに対して失礼な行動だとは思うが、新木の気持ちも分かる。

別れた彼女の心情を慮って学校生活を隠れて過ごすなんてムリだ。いいがかりに近い。


「おおげさだと思う?」


「うん」


うんて!そりゃ僕だってそう思うけど!


「このコ中絶したの」


迫力あるセンパイは自ら招いた内気な先輩の肩に優しく手のひらを乗せた。途端、糸が切れたようにペタンと座り込む内気なセンパイ。どうやら冗談の類では無さそうだ。3人の男子生徒もみんな辛そうに顔を伏せている。仲のいい友達なんだろう。

内気なセンパイは窓際にいた残り2人の女生徒に抱えられ椅子へと促される。


「ご覧の通りまだ立ち直れないのよ。全然ご飯も食べないし」


確かに少し病的な印象を受ける。元々線が細いのかも知れないが、なんというか『脆さ』が表面に浮き上がっているようだった。


「まだ、おおげさだと思う?」


僕はオトコだし中絶の苦しみなどわからない。そんな僕でもあの内気そうな先輩が苦しんでいるのは分かる。

新木の後ろでハナシを聞いているだけの僕だが、この先輩たちの真剣さは痛いほど伝わってきた。

新木はどう思って今の話を聞いたのか。後姿では判別が付かないが……友達である梶先輩の行為に何も思わないとは思えない。

今新木を問い詰めているセンパイも同じ事を考えているのか、新木の言葉を辛抱強く待っている。


「……ナイ」


新木の言葉をえ?と問い返す顔にはやはり迫力があった。多分聞こえたんだ。聞こえたけどあえてもう一度聞いている。

というかちょっと待て。僕にも聞こえたが、ちょっと待て新木!それはダメだろ!!


僕は新木の肩を掴んで新木を止める。


「新木!?考えろ!おかs!」


新木の顔を見た僕は……悟った。これは止まらない。


「もういっぺん言ってみなよ!」


新木の胸倉を掴み凄む女生徒。しかし。


「な何度でも言うけど」


ああ、やっぱり。


「く、くだらないって言ったんだ」


新木はなんか、怒っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ