〔リコ編〕そういう訳にもいかないよ
僕は放課後を待ち2年の教室へと向かう。
終わせられるものならさっさと終わらせてしまいたい。理子の寂しそうな背中を見かけるたびに強くそう思っていた。
訳も分からず只耐えるだけでゴールが見えないとなれば、そうそう持続するものじゃない。僕には理子が少しやつれているように見えていた。
「なんだか……緊張してきたよ」
僕の後ろから緊迫した面持ちで追従する男子生徒、リア充藤崎はそう漏らす。付いて来いと言った覚えはないのだが?
僕だって階段を昇りながら足の震えを抑えるのに必死だが、今はそんなこと構っていられないのだ。
「べべ別に藤崎は、こ来なくても」
付き合わせるつもりはない。呼び出されたのは僕だけなのだから。
「……そういう訳にもいかないよ。オトコノウツワ見せないと、ね」
そう冗談めかして少しだけ笑う藤崎。
「な殴られるかも」
僕がそう言うと急にぱっと顔を上げ泣きそうな表情をするオトコノウツワの持ち主。
「まさか……そんなことしないよ……しないよね?」
「わわ分からない、けど」
そんな展開が全く可能性が無い、とは言い切れない。
僕や藤崎の得手不得手に関わらず相手はどう出てくるかわかったもんじゃない。僕らはただ呼ばれたからアホウのようにノコノコ出て行くだけなので相手にしてみたら待ち伏せし放題、いいカモなんじゃないだろうか?
この学校は偏差値が高いだけのロクデモナイ学校だと薄々気付いていた僕らは笑ってばかりいられない。
「新木。足、震えてるんじゃない?」
僕の足元に視線を送りそう呟く藤崎。
「こ声裏返ってるぞ藤崎」
僕も藤崎も……はっきり言ってビビッていた。
僕はケンカなんかしたことはないし、藤崎だって似たようなものだろう。
「……新木……やっぱり、止めとく?」
「かか帰ってもいいよ。ぼ僕は行く」
「冗談だよ!行くよ!……はぁ」
溜息を隠さずに吐きながらもテクテクと僕に付き従う藤崎。やはりなんだかんだ言っても藤崎はイケメンだった。
本当ならばさっさと帰って明日の予習でもしていただろうに。少し申し訳なく思った。ので今度パックジュースでも奢ってやる事にしよう。
ヨロヨロと頼りない足取りながらも階段を昇りきった僕と藤崎は2年生の教室が並ぶ廊下に辿り着いた。さて。
もう放課後をとっくに過ぎているので生徒の姿はまばらにしか居らず僕らを気にする風でもない。手紙には詳細は書いてなかったんだが……どうしたものか。
「おい」
一番近くの教室の扉から一人の生徒が僕らに声を掛けた。
男子生徒である。手紙の差出人は女生徒、この時点で相手は複数であることが判明しがっくりと肩を落とす藤崎。
「入れよ」
僕らを教室に招き入れる微妙に筋肉質のこの生徒。DQNというわけでは無さそうだが迫力はある。何か部活でもやっているのか学ランの襟元からジャージが覗いていた。招き入れられた教室内、フワフワと落ち着きの無い足取りの僕らはその光景にしばし沈黙する。
廊下の反対側の校庭に面した窓際に4人の女生徒、僕らを品定めするように覗き込む黒板の前の3人の男子生徒。
計7人の視線が遠慮の感じられない勢いで僕らに突き刺さっている。
「殴られるって」
痛いかな、そう藤崎は引きつった笑顔で呟いた。