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ベクトルマン  作者: 連打
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〔リコ編〕校内における社会選択

気持ちの良い春晴れ。とか人並みに思ってみたりする。

ケチを付ける隙を世の中に探してみるが今日はなかなか見当たらない。断固普通、『ある日』としか言えない、そんな日である。

空から女の子は落ちてこないし、異世界にも飛ばされない。誰も食パン咥えてないし、お嬢様のリムジンだって見当たらない。

そんな心地よい朝を隠れるように歩く。今日も一日平和でありますようにとアッラーとかイエスとかなんかその辺に祈る。どれか引っかかれば儲けモンだし引っかかんなくても「またか」位で済む程度なら、まあいい。


特に声を掛けられない。ので校門をくぐる。きゃっきゃ騒ぐタイプの生徒はこの学校にはあまりいないので静かなものだった。4割くらいの生徒は単語帳を吸い込まれるように見詰めている。あれで前が見えてるのだから慣れというのは恐ろしい。ザ・ガリ勉のあるべき姿がここにはある。

僕は出来杉くん量産型たちの姿に軽く感動しつつ自分の教室へと向かった。


「おはよう」


藤崎に挨拶される。僕はワタワタと返事をすると耳障りな音を立て椅子を引いた。

そこへふらりと現れる女生徒の影。


「いいなーあれ」


「あ、おはよう智花ちゃん」


校庭を眺めるように教室に入ってきた智花はなにやら羨ましそうに呟く。


「『特進クラス』午前中はサッカーとバレーなんだって」


「?」


なんのことかよく分からず僕が首を捻っているとカバンを乱暴に置いた智花が説明してくれる。


「3年のクラスはね、一クラスだけ『特進クラス』って呼ばれてるの」


はて?

語感から推測するに成績のイイ生徒を集めたクラスのように聞こえるが……だとすれば授業中遊んでなんかられないんじゃないだろうか?


「お姉さん『特進』でしょ?知らなかった?」


「はは初めてきき聞いた」


ヤツは多くを語らない。自信家のクセに自慢は一切しないのだ。まあそんなこと聞いたところで「ふーん」とすら出なかったと思うが。


「普通の学校の選抜クラスは今頃血眼で勉強してるんだろうけど、もうあの人達はそういうの超えちゃってるらしいね。今さら誰も焦らない。気楽なモンだよ、勉強しない高校3年生なんて」


そう呟き、溜息を吐きながら机に倒れこむ藤崎。なんかコイツはいつも困ってるか嘆いてるなあ。

しかしちょっと納得がいった。

以前のカラオケでの姉のクラスの様子はこの学校にはどう考えてもミスマッチだった。やけにノリが良く皆カラッと明るい人間ばかりだったように思っていたが、なるほどそういうことか。高3にあるべき不安がナイんだ。そりゃサッカーだろうがバレーだろうがなんでもやるよな。


「……」


校庭から聞こえる歓声を少々耳障りなバック・ミュージックのよう聞きながら、みな授業が始まるまでの短い時間を過ごす。

日常。これが『普段』である。

僕は別に『特進クラス』などというクラスに行きたいとも思えないし、多分いけないんだろう。僕は普通に受験勉強にヒーヒー呻きながら聞いたことも無いような大学に行ければゴマンエツなのである。

ザワザワと少しだけ騒がしい朝の光景。痛くも痒くもないこの平穏。とりあえずこんなもんだよきっと。



「シューゾーくーん!」


「……っ!!!!」



瞬間キン、とひび割れる教室内。

理子が廊下の窓からぴょこんと顔を出す。いつも通り。じゃあこれはなんだ?


「お母さんがよろしくって!今度ウチに遊びに来てって言ってた!」


「ぁ、ああ……」



理子はいつも通り。じゃあいつも通りじゃないのはなんだ!?

相変わらず校庭からは遠く歓声が届いているのに。


僕は反射的に教室を見渡す。違和感が背中を撫で、冷や汗がツルツルと滑っていく。背中……


「じゃあまたおひるね!」


理子の挨拶を肩口で受け引きつった笑顔で見送った。


「……」


理子が来たから?

藤崎、智花……教室内。


僕の視界には生徒達の背中しか見えなくなっている。


理子が消えた途端ぶり返すザワザワとした喧騒。雑談の渦。グルグルグルグルと声が万華鏡のように乱反射する。

いまだに頑なに前を向く藤崎。無理やり横を向いているような態勢の智花。




これって……アレじゃないのか?

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