リコでケツは拭けない
「が合唱部?」
「そうです!」
理子は乳幼児のような胸を張り誇らしげに宣言した。なぜか鼻息も荒い。
「中学校のときは全国大会に行ったのです!」
ムフーと勝ち誇った表情の理子は気が付いていない。僕にとって『合唱部で全国大会』など単なる黒歴史でしかないことを。全く羨ましくない。ていうか気の毒だ。ムフーやめろこのやろう。
「だからね?今度のクラス発表会が楽しみなの!」
おいおいおい。そんなもの楽しみにしてるのはお前か受刑者くらいだ。娯楽に飢え過ぎだろう。
「わたしのクラス相変わらず皆おとなしくてさ。こういう機会でも無いときっかけが無いみたい」
「そそそうなんだ」
寂しがり室内犬からしたら辛いのかも知れない。僕のクラスは、まあ僕はさておき皆割と打ち解けてきた感はある。その僕でさえ藤崎やら智花と僅かながらハナシ位するのだから。理子の現状は詳しく分からないが表情から察するにかなり深刻なのかもしれない。
「そういえばシューゾーくんって……柚木センパイと知り合いだったの?」
「あ。ううん。い一回会っただけだけど」
「いっかい!?」
「ここコンビニ行ったときに。ゴリとしし知り合いみたいだったし」
「ごり?あ、梶センパイ?そうなの?」
「りり理子も見てるかとおお思ったけど。が学校で」
うーん、どうだったかな。
ゴリが牛乳買いに行かせたからほとんど見てないかも。そういやあの時ゴリはなんか物騒な事言ってた気がするが……多分あのDQNオンナはそんなカンジじゃない。姉も知り合いみたいだしおっかない人間には見えないんだが。
「……綺麗なひとだね」
「ももモデルなんだってさ」
多くの目に晒される雑誌という媒体に掲載されお金を貰えるってことはそういうことなんだろう。大多数の人間が『綺麗だ』と認識していなければそんなバイト出来ないもんなあ。僕がどう思おうと民主主義ニッポンでは最大公約数の勝利なのである。
「なんか仕種とか可愛いし。いいなあ」
挙動不審なだけだった気がしないでもない。対照的に理子がたまに体育会系なのは全国大会とか行く部活やってたからなんだろうな(合唱だが)。それは僕から見たらいいことだと思うんだが、理子は思うところがあるようでなにか考えている。
「シューゾーくんの好きなタイプってある?」
「たたタイプ?」
「うん!元気なコとか大人しいコとか」
うーん、どうだろう?あまり考えたことがなかった。なんせ普段は早い者勝ちで『○○は俺の嫁!!』といかに素早く書き込むかだけなので。うーん。
「りり理子っぽいカンジ」
「……!!!!」
こいつはあまり生々しくない、というか2次ッぽいのだ。なんというかキャラっぽい。
みんながみんな理子のようだったら世界はもっと平和になるのに。国会とかでシッポピコピコしてご飯モフモフして。おおう、ちょっと萌えてキタ。
「そそ、それってわたしってこと!?」
「それはない」
いやいやいやいや。そんなにエキサイトされてもムリなもんはムリだぜお嬢ちゃん。なにが気に食わないのか知らないがそんなガッチリ肩つかまれても。
「『理子っぽい』って言った!ここにいるよ本人!はいはい!わたし理子!どうぞよろしく!!」
「ない」
「な!ちょ!シューゾーくん訳わかn」
「ない」
理子っぽい、はあくまで概念の問題であり理子そのものではない。理子のことは好きだし、イイやつだと思ってはいるが『好みの異性か?』と問われれば否!断じて否!じゃあどんなんだよと聞かれても答えなど無い!そんなものは前世で廃品回収にてトイレット・ペーパーと化しておるわ!!そう!!理子でケツは拭けないのだ!!うははははははははっ!!
おや?
「はべっ!?」
「わ・け・わ・か・ん・な・い・!!」
わ・け・わ・か・ん・な・い、と一文字づつクッションで殴られた。どうやら僕はまたやらかしたようで、それでもやっぱり原因が分からない僕はまた繰り返すのだろうなあ。リアルはとことん無理ゲーなのである。
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「……ちょっとカナ。なに笑ってんのよ。聞こえちゃうじゃない」
「いや……やっぱり拒否る時はカマねーんだと思ってさ。ぷっクッ」