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ベクトルマン  作者: 連打
33/189

吉本ば○な


臆病な者、力の無い者は総じて周囲の状況変化に敏感なものだ。


自らの保身の為努力するのは生物にとって当たり前且つ遺伝子に刻まれた命令であり異を唱えるものは少ないだろう。

今、僕の父であり変人のカレは今まさに危機を敏感に察知し生きる努力をしていた。


味噌汁を飲みながら次のおかずに箸を刺しソレを口に運ぶ途中でご飯を手に取る。流れるような一連の動作は熟練のTOYOTAライン作業員のようだった。一秒でも早く与えられたミッションを多くこなすことに魅せられた職人たちのロンド。世間話のついでにこなす恐るべき精密作業。

この父を見ているとまだまだ日本は大丈夫なんじゃないか、そう思わせてくれる頼もしさがあった。


まあ、やってることは一刻も早く食事を済ませ自室に逃げ帰ろうとしてるだけなんだが。


相も変らぬ静寂の中箸の音だけが響く一見華やかな食卓。姉はいつもあまり喋るほうではないしDQNオンナの箸が進まないのもなんとなく分かる。初めてのウチでいきなりガツガツ食事する豪胆なオンナなどいないだろうから。



「理子ちゃんおかわりは?」


「いたらきまふ!」


あ、いた。


僕は料理など出来ないから分からないが、やはり沢山食べてもらえる方が嬉しいんだろうか?姉は少しだけ上機嫌に見える。頬袋に詰め込んだ食料をモグモグしながら姉にニコニコと話しかける理子。


「古都センパイはお料理上手なんれふね!おいしいれふ!」


「そう?いっぱい食べてね」


マンザラでも無さそうな笑顔がキモチガ悪い。

以前姉は言っていた。

料理なんて誰でも出来る、本屋に行けば作り方は分かるしテレビでは頼みもしないのにこう作れと指示される。大事なのは徹底すること。分量、材料、調味料を数字どうりに調理すれば出来ない理由が無い。出来ない人間はありあわせのモノで代用したり個人的な嗜好を取り入れるからだ。数学と同じで自己流では答えが違ってくるのも当たり前、と。


『料理は愛情』を真っ向から否定する実に姉らしい論だと思う。言ってることは分かるが今の姉の笑顔を見ると単にロジックの結果ではないナニカがあるような気がするが……余計なことは言わない僕はヘタレ・ダンディー。


「おいしかった!ごちそうさま!」


早っ!?僕がダンディーぶってる間に父の皿は綺麗に無くなっている!!


「私は読みかけの吉本ば○なの詩集があるから失礼するよ。皆さんごゆっくり」


そう言って皆を煙に巻くと父は笑顔で背中を向ける。あんなアタマのおかしいオンナの詩集など読んでなにに役立つのだろうか?


「たまにはアタマのおかしい女性の文章もいいぞ!現実逃避には持って来いだ」


はっはっは、と僕の肩をポンと叩き自室に引っ込む父。

……だからさあ!!てめえは思ったことを素直に口にするんじゃねえっ!!素直が美徳なのは小学生までなんだよっ!!


「ああ、言い忘れた」


ひょいと再度父登場。まだおかしな毒を吐き足りないんだろうか?全くコイツは変j


「古都は思い込みが強く付き合い難いかも知れないし、こっちのこいつは引きこもりの肉団子なんだが」


「……肉団子?」


「……肉団子?」


「……」


DQNと理子が気をつかいながらこっそり僕を見たが、僕はヤツを告訴する算段で忙しい。法的な手段に訴えよう。



「2人とも真っ直ぐなイイやつなんだ。柚木さんも楠さんも仲良くしてあげてほしい」


どうか、よろしくお願いします。と父は頭を下げた。


「いや!そんな……こっちこそ!!」


立ち上がったDQNはブンブン両手のひらを振り汗を拭いながら恐縮している。初対面のオッサンにアタマ下げられるとは思ってなかったんだろう。


「大事な友達です!こっちもよろしくお願いします!」


ニヒと笑う理子は父に向かって頭上げてくださいと声をかけた。後輩気質の理子は体育会系のスキルを発動させている。




姉は照れくさそうに苦笑いしながら頭を掻き、やめてよお父さんと力の無い口調でぼやいた。

つい最近まで寄り合い所帯の出来合い家庭だった我が家のささやかな変容。

僕は以前ほど寒気を感じることも無く、ずずと黙って味噌汁をすすった。


おいしかった。



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