徳の高い坊主のようなヘンタイ
僕は「クラス発表会」で憂鬱な気持ちを引きずりながらも下駄箱へと向かう。理子とゴリが待っているのは最近のお約束だった。すると……
「きゃ!」
「どんくさいなあ。大丈夫?」
文科系の部活なのか3名程の制服の女生徒が階段を駆け上がる際、躓いて転倒しかける。僕はその声に反応し階段を見上げるとチラチラ僕を伺いながらその姿を消した女生徒たち。
「シューゾークーン!」
僕を見つけた理子が駆け寄ってくる。理子のクラスも発表会の相談でもしていたのかいつもより40分程時間がズレていた。
「ごめん遅くなって!梶センパイは今日用事があるからさき帰ってろって!」
「……そそそうなんだ」
「ん?どしたのシューゾーくん」
僕の態度に何かを感じたのか理子は心配そうに僕に聞いた。敏感な感性。ああ、女の子なんだなあ、としみじみ思う。理子に聞いていいものか?でも僕には他に聞けそうな女生徒などいない。
「シューゾーくん?」
僕の袖をくいと引き、声までトーンをオトス理子。
夕方の昇降口。
いつもより遅い時間。
紅く染まり始めた下駄箱の列。
人影はまばら。
僕を見詰める理子の不安げで熱心な視線。
そんな空気に当てられたのか……僕は口を滑らせた。
「り理子」
「なあに?」
「ぱぱぱんつってどんなん?」
「ぱ……え?」
「しし下着」
「パンツ?この?」
理子はスカートの上から自分の腰辺りを両手の人差し指で指す。はい、そうです。まさにそのパンツです。下着、アンダーウェア、パンティーと言いなおしてもいいが。
「だだダメだよ!?いくらシューゾーくんでも見せないよ!?」
スカートの裾を掴み中腰で後ずさる理子。やはりこいつに聞いて正解だった!!さあどうしてくれよううははははははははは!!
「……どした?シューゾーくんらしくないよ?」
じりじり距離を開ける理子。ちょっとだけそれより足早に詰め寄る僕。うははははははははははは!!
「って、……まままあそれはじょ冗談」
「だよね!びっくりさせないでよもー!」
一瞬にして子犬に戻った理子はピコピコ尻尾を振りながら警戒を解き僕に接近する。当然理子に関しては比喩満載でお届けしているがそう見えるのだから仕方なかろう!!もう犬でいいんだコイツは!!
「ややっぱり恥ずかしい?」
「そうじゃない人いないよ!」
なに言ってんだという目で睨む理子。迫力は、どっかに落としてきたのかスッポリ抜けてはいるが。ってかそうじゃなくて!そういうこと言ってんじゃなくて!!
「さっき、じょじょ女生徒が階段で躓いてさ」
「ん?」
「おおおもいっきりパンツ見えたんだ」
「らっきーってカンジ?」
おどける理子。しかし僕が何を言わんとしているのかは図りかねるようで辛抱強く待っててくれている。僕が口ベタなのを理解してのことなんだと思うとちょっとうれすいい。
「そそその女生徒は、ぼぼ僕を睨んで去っていったんだけど」
「ふんふん。恥ずかしいモンね」
「それって、ぼぼ僕が加害者なのかな?」
「カガイシャ?」
やはり理子はよく分からないようで首をかしげる。首を傾げたいのは僕なんだが。
「わわ悪かったんなら謝りようもあるけど……ぼぼ僕にはパンツの価値がよくわからない」
「カチ?」
見られて怒るということは、そこに何らかの価値を彼女らは見出してるんじゃないだろうか?しかも一方的である。バッサリ一切の思考を停止させ条件反射で被疑者を断罪する程の価値。それがあるんじゃないのか?
エロゲよりギャルゲが好きな理由も実はコレだ。生々しい女性のニクタイが耐えられないのだ。CGでさえムリなのだからリアルなどオシテシルベシ、だったりする。理解に苦しむ、ではなくてハナから分からないのだった。割とマジで。
怒ってる訳ではない。僕は知りたかった。その印籠のような価値を持ったコダワリを。男に聞いても(ネットだが)「しまぱんはジャスティス!!」位しか返答は無い。これまた思考停止。それでは僕は分からない。かと言って女生徒に知り合いはいない。つい最近まで。
僕はここにきて今その謎に迫ろうとしているのだ!!
「なんかよく分かんないけど」
理子は下駄箱の小さな扉をパカリと開きながら僕を見た。
「そんなに見たいなら……とうっ!!」
掴んだスカートの裾を元気に持ち上げ僕の正面を向きながら見せ付ける。
「体育だったからスパッツでしたー!ざんねーん!」
……いや、そうではなく。
「大サービスですよ!!これすごい事ですよ!!」
ぱっとスカートを降ろし現れたのは耳まで真っ赤な理子の子犬のような人なつっこい笑顔。
「ひやああああ!テレた!!やめとくんだった!!」
ぱたぱた手のひらで顔を仰ぐ理子。
僕は「ざんねーん」の意味や「大サービス」の定義や「テレた」の根底にあるものが知りたかったんだが。
これではまるでヘンタイである。
ただスカートを女の子自らの手で捲らせただけのヘンタイである。
恥ずかしいことさせている事自体に興奮する徳の高い坊主のようなヘンタイ以外の何者でもない。
「もう!!シューゾーくんはヘンタイくんだったんだねー!!」
ややややややややっぱりぃいいいいいいいいいぃぃぃ!!!!そりゃそうか!!誰が見てもそうか!!
誰に謝ったら許してくれるのコレ!?助けはくるの!?
「かえろヘンタイくん!!」
真っ赤な顔で跳ねるように駆けていく理子。さて問題は。
いかにしてゴリの耳に入らぬよう理子に口止めするかだった。イチローの打率の三倍くらいの確立でぬっころされるぞ僕。
…………。
……………………。
「りり理子!!おおおなか減ってない!?なななんでもおごるよっ!!」