姉という試みは有害か
以外たい。
間違えた。
胃が痛い。
なるべく考えないようにしていた入学式初日の朝、僕は原因不明の難病とひとり格闘していた。
枕に頭を押し付け悶える様にうめきを押しつぶす。
遮光カーテンからわずかに漏れた突き刺すような朝日は僕を更に窮地へと追い込む。いやおうナシの現実と待ったナシのターイムボカーン。敵はあまりにも強大で容赦なく、僕の微々たる魔法力などまったく役には
「いつから魔法使いになったのよ。設定キモい」
なぜ?
はて?
敵の幻覚攻撃は更にエスカレートしているようで、姉の姿をこんなにも正確に投影している。確かに僕は姉に頭が上がらない。いや、本気出せばメスの一匹二匹どうってことないよ?いやほんとにほんとに。
「さっさと起きなさい。遅刻するわよ」
シャッ、と勢い良く結界が破られた。それこそ年単位で築いた僕の完璧な固有結界(遮光のカーテン)をいともたやすくものの数秒で……姉……恐ろしい娘。
「ってなんで僕の部屋に!?なにしてんのっ!?」
ふとんを跳ね飛ばし異常事態に対処すべく立ち上がる僕。
「あんたは入学式とか始業式になると仮病使うからね。わざわざ起こしに来たんだからありがたく起きなさい」
仮病ではなく精神攻撃なのに。何度言っても理解しようとしないメスブタめ。ここが戦場だったら至近距離で罵倒してやるのに。あ、もちろん僕が上官役ね。
「父も待ってるから。早く来なさいよ」
口汚い捨て台詞(意訳)を吐き静かに僕の部屋を出て行く姉。僕の部屋なんて入ってきたのはもう覚えてないくらい昔、しかも一度きりだったはず。母さんが死んだときだけだった。
え?死ぬの?姉死ぬの?
…………。
ま、それはそれ。
さて……僕は強大な敵とのバトルが大変な事になっていたのを思い出し、もぞもぞと温もりの残る戦場へ帰還すべくふとんを翻そうと
「マジで早く来ないと……怒るから」
「うんすぐ。すぐ行く」
僕の部屋の扉の隙間から姉の詠唱した魔法により僕は迅速に着替えを開始させられた。だってマジじゃんあいつ。マジで怒んなくてもいいじゃないですか。
「っと」
とてつもない違和感。
鏡の前に見知らぬ人影。
「……」
なんだ僕か。
そういえばこの姿見を覗き込むなんて何年ぶりだろうか?部屋にあるのは知っていたが使い勝手の悪いハンガーの役目しか果たしてなかったな。
「……」
見れば見るほど違和感が首をもたげる。なんせ半年前までの体から丸々一人分の体積が消えうせているのだ。最近では食事の時に汗をかかなくなったし、股ずれも消えた。なんか鼻息も荒くなくなった気がするし。
毎朝食べてたカレーパン4個。思い返しただけで胸焼けがした。
なにより重宝するのは体が軽いこと。これなら満員電車で露骨に嫌そうな顔をされることも、長い階段で圧倒的な絶望感に襲われることも無さそうだ。
定食屋で頼まなくても大盛りにしてくれる『デブ育成プロジェクト』に参加させてもらえなくなりそうなのがちょっとイタイが。
「……いい度胸してんじゃないの」
「すぐ!もう行くから!」
隠密スキルの高い姉は怒っていた。僕は即座に従順に姉にへつらい付き従う事で危機を回避することにする。
だってマジじゃん。
マジ怖いじゃん。