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ベクトルマン  作者: 連打
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軽蔑します(姉サイド)


「行かないの?」


廊下の窓から中庭を覗き込む柚木さん。


「いいいけないよ!あのちっちゃい子スゲーかわいいじゃんか!なんだよもー!」


すっかり自信を喪失している。私の記憶では柚木さんはもっと無闇に堂々としていていちいち派手、少なくとも廊下で涙目を堪えオタクバカの挙動を窺うようなコではなかった。


「ああいうのがタイプなのかな!?あたしあのコと共通点ゼロなんだけど!?」


確かに共通点など探すほうがどうかしていると思う。柚木さんはとにかく、是非は置いておくとして華美。華やかなモノを纏った華やかなコなんだと思うし。

どこを取っても好対照なあの小さな女の子は……なんていうか人工的な香りがしない。きっとあのコは星を見れば綺麗だと思うのだろうし、おいしい物を食べればおいしいと言って笑顔を振りまくのだろう。

人の好みは多種多様、もちろん柚木さんの華やかさに魅力を感じるオトコは全体的に見れば圧倒的多数派なのだろうが、あのバカの好みが全く分からないので柚木さんはただただ脅威を感じている。自分と全く違う魅力を持ったあのコに。


しかし……いつまでも廊下で弟の食事を眺めているほど私も酔狂ではない。ここはさっさと声をかけ、お役御免と……


「ちょちょ!!どこいくの!?」


「え?だから周蔵に声を……」


「いやいやいやいや!!待って!ちょっと待ってよ!!」


私に縋りつく柚木さん。形相には余裕の欠片も見当たらない。


「心の準備ってあんじゃんか!!そんな急に!!ムリだよっ!!」


ふう、と目を閉じ溜息を心の中で吐く私。周蔵も外見と中身のギャップは物凄いが柚木さんも負けてないんじゃないだろうか?普段これだけ見せ付けるような格好をし、現に引っかかる男も数知れないだろうに。言い寄られるのは慣れっこだが、逆に拒絶されることを極端に恐れている。どうやらそこまで悪いコではないようだが……よくわからないというのが本音だった。


「なにしてんのカナ」


廊下を私たちに向かって歩いてくる女生徒二人。見覚えはあるが名前は出てこない。柚木さんの知り合いらしいが……なるほど類は友を、ってやつか。柚木さんほど華はないがやはり2人とも何かに怯えている様に過度の化粧、髪型、同系列である。


「いやちょっとね……はは」


友人に弱みを見せるのがイヤなのか必死に作り笑いを浮かべる柚木さん。このコも忙しいコだ。


「新木さん?随分意外な組み合わせだね」


なぜか私の名前を知っていたようだ。品定めのような視線を私に向ける友人A。この学校でのこの手の手合いはほとんどが『高校デビュー』という不名誉な称号を囁かれる者たちなのは皆知っている。威嚇しているつもりなのだろうが申し訳ないが滑稽でしかない。


「ああ、中庭?耳が早いねカナ」


「え……なにが?」


キョトンとする柚木さん。私は彼女らの言動を注意深く観察する。厭な感じがする。


「カナはいつも参加しないから興味ないのかと思ってたよ」


「なんのハナシだよ?」


「今度おしえるよ。ここじゃ、ね」


露骨に私に滑稽な視線を送り、去っていく2人。クスクスと陰湿な笑み。そして見た。

わずかの間、ほんの一瞬……昏く歪む柚木さんの横顔。久しく感じることの無かった不快な空気。


「……柚木さん」


「え!……ななななに!?」


「例えば、のハナシするけど」


「……?」


「あの周蔵と一緒にいる1年生の女の子。あのコになにかあったら私はあなたの事を軽蔑します」


「は!?なななんだよ急に!!」


「嫌いなの私。いやがらせとかいじめとか」


「ハナシきけって!!あたしは別に」


あの中庭。あれは周蔵が手に入れた大事な共同体。本人達にに自覚があろうがなかろうが間違いなく。私にはほとんど奇跡のような光景。なにしろあの周蔵が話し笑えている(分かりにくいが)。


「あなたが状況を事前に知りえる立場なのはなんとなく分かったわ。だから傍観、黙殺、諦観、積極的参加、非積極的参加、消極的賛成、このいずれかの行為を採った瞬間、あなたは私とは相容れない人種」


「おおおどかすなよ!!なんなんだ!?」


その共同体を壊す?しょうもない嫉妬心や僻み根性で?いやいやいや。私は所詮一女子高生でしかないが、学校内のことは学校内の者にしか分からないし実行力は持たない。であるなら。


「脅しかどうか」


「ひっ!?」


私は柚木さんの顔に肉迫し、その大きな眼球を射抜くように見た。


「試してみたら?」


「ふぁ……ひ」


私は許さない。あらゆる手段で一人づつ詰める。誰であろうと。何人であろうと。あの中庭を壊させない。


「ふぁあ……うぇっ……ぐず」


「あ、え?……ゆ、柚木さん?」


派手で見栄っ張りな柚木さんの顔がくしゃっ、と潰れ漏れ出す嗚咽。


「あたし……関係ないもんっ!!そんな怖い顔で……おこんないでようっ!!」


「あ、あの……あれ?」


他人の目も憚らないおおっぴらな号泣。ままま、まいったな。困ったな。


「うわああああんっ!!なんだよう!!もうやだあああ!!」


「あああああ、ご、ごめん柚木さん。お願いだから泣き止んで……」


「うあああああああああんっ!!」




こここここここ困った、な。

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