立食パーティーとかしてやるからな!
僕は脱衣場に置かれてあったパジャマを着込みいざ自室へ。なんか息苦しいし、ちょっと足が震えているがいつまでも廊下で突っ立ってる訳にもいかず意を決して扉を開けた。
「……」
「……」
黙って僕を見る姉。何も言ってこないのをいいことにさっさとベットに移動する僕。
姉は持ち込んだ布団で横になりながら静かに僕に言った。
「ぶっちゃけ、正直に答えて」
沈黙以外返すことの出来ない僕はもぐりこんだベットの中で黙って姉の質問を待つ。星は無いが月の見える薄暗い夜。
「あんた私のコト嫌いよね?」
「うん、……ってい痛い、いたいってば!!」
ばっしんばっしん枕代わりのクッションで僕を力任せに殴りつける姉。
「そんなはっきり言うことないじゃないの!!」
ばっしんばっしん
「だだだってしょ正直にって!!」
「それにしたってもう少しデリカシーとかあってもいいんじゃない!?」
ばっしんばっしん
「ささ最近おおおかしいよ!?どどどうしちゃったのさ!?」
「あーおかしくて結構!!私は決めたの!!」
ようやくクッションを手放した姉は昔のロボットヒーローのように目から光線でも出しそうな視線で僕を見る。この眼。これはヤバイ。CADの設計技師のような僅かのズレも許さない厳格な瞳。つまり……新木古都の瞳だ。
「間違い続けて逃げ続けるのはもう辞めるの!!」
「ははあぁあ!?」
言っているコトが漠然としていてサッパリ分からない。これは本当にいい病院を探さなければ……
「タウンページ開くな!!」
「はぶぷっ!!」
クッションとんできた。
「あんたがそんなふうに人と付き合うのが苦手な理由、私なんとなくわかるの」
暗がりで表情は全く分からないが少なくとも冗談を言っているわけでは無さそうだった。あいかわらずあの『瞳』だけが僕を捕らえて離さない。
「お母さんが居なくなってあんたストレスでどんどん太って。父は最近きたばかり、血の繋がりもない」
ストレスだったんだろうか?自覚は全く無い。が。
「元々友達少なかったあんたは、すぐ孤立した。外見のキモさもあったし」
おーい!だれか告訴用紙!この無礼な姉を告訴するぞー!!
「学校でハジかれたあんたが逃げ込める場所。『家庭』」
なんだかテクニカルに嫌がらせを受けているようでふ・く・ざ・つ!
「なかったよね、『家庭』」
特に気にしたことないよ。
「避けてたの私。朝ごはんとかなんだかんだ言い訳して一人だけ早く食べたりして」
そんなことはとっくに知ってたぞー。なにをいまさら。
「あいさつもしなかった。だってキモかったし」
てめえコノヤロウ!!さっきからなにが言いたいんだ!!
「最終的にあんたを追い詰めたの、私」
ナルシスティックな気分なのか!?自分さがしのOLかっ!?ヨーグルトでも食べてろ!
「逃げ帰ってきた家で、姉の私が学校の皆と同じ目であんた見たらそりゃあ逃げ場無いよね」
全く覚えてねえし!てか逃げてねえし!
「だってあんた……昔は普通に喋ってたもんね」
そう……だったか?本当に覚えが、無い。
「あんたはいっつもそう。学校はなんだかんだ休まないし、我慢続けて赤面症やら失語症やら。それでも」
いやもう……止めてくれないだろうかマジで。
「太ってても痩せても。そんなこと関係ないのに」
まいった。ここまでへこんだ姉は初めてだ。
「だから」
いや、ちゃちゃチャンス!?ここでコイツの心を抉る○メハメ波をぶち込んで、今後一切生意気な態度を取れなくしてやろうか!!なにがいい?なにか効果的なワンフレーズは……
「ごめん」
「なななに謝ってんだよっ!!」
あ、あり?
「人のせいになんかしない!!ぼぼ僕はぼくで……どうしょうもない僕は僕だけの僕なんだっ!!」
エキサイティング!?コレが噂の妖精『エキサイティング』なの!?
「かか勝手に責任背負い込んで、それでまま満足なのか!?じょじょ冗談じゃない!!そんな風に、いい言われたら」
姉は相変わらずシルエットでしか認識できないが、時折見せるブレ、振るえ。それでも僕はいわなければ。
「姉ちゃんや父さんが……間違ってたってことになるんだぞ!?」
そうなのだ。ガツーンと言わなければ。
「み、みんな頑張ってたじゃないか!!そそ、そんな人たちが間違ってたって……無責任に言ったらダメだ!!」
「……周蔵」
イノシシみたいなこの姉は全部背負い込もうとするから。
僕は姉ちゃんに人差し指を突き出し宣言する。
「僕はちゃちゃ、ちゃんと何でも出来るから!!みみ見てろよ!!僕のエンジョイ・ハイスクールライフを!!」
「……うん」
「りり立食パーティーとかしてやるからな!!」
「……うん」
「きき金髪の彼女とかつつ連れてきてやるからな!!」
「うん、お姉ちゃん待ってる」
「おおお姉ちゃんとか!!やめろよ恥ずかしい!!」
「周蔵が呼んでくれた。さっき」
「よよ呼んでないっ!!」
「呼んだもん。聞いたもん」
二ヒッと笑った姉の久しぶりに見る何の裏もない笑顔。僕はなんだか背中がむずむずとしていたが、年に一度位ならこんな笑顔もいいなあ、とちょっとだけ思った。