『敬虔な信者』
怖くは無い。怖くは無いんだけど。
僕の胸にトンと置かれた顔辺りからずるずる蕎麦でも食べてる音が響いてきたかと思うと同時、痛いくらいの力で僕の手のひらを握り締めるDQN(♀)。あまりに突拍子もなかったので僕の頭の中の処理はおっついていなかった。
これはイベントなんだろうか?大した選択肢は無かったよ?それに僕はこのオンナのコトを好きな訳でもないし、このオンナだってそうだろう。
リアルは理解しがたい。この展開はグッド・エンド?バッド・エンド?いやそもそも終わってないし。
「ああああの」
「ちょっと静かにして。今キューシュー中。ぐじゅ」
九州?
「吸・収」
「りょりょ了解」
なんでバレたんだ?
…………。
オンナは僕の手をただ握り続ける。硬く目を閉じ息さえ殺して。なんだか必死である。僕は宗教には縁がないが『敬虔な信者』ってのはきっとこんな顔で祈るんじゃないだろうか……などとカッコつけた事を考えていた。
なにがあったかは決して言おうとしないがきっと僕なんかでは役に立たないだろうし、期待されてもいないんじゃないかな。
でもこうしていたいならさせておこうと思うんだ。
震える手に尚、力が篭る。
今必死な顔で何かを無理やり押え付けてるこのオンナは……DQNでもなく自意識過剰でもなく、捨てきれないモノを捨てきれないでいるだけなんだろう。
そのコダワリはすごく尊敬出来るし、この真剣な顔ならきっと周りの誰かが手を差し伸べてくれるんじゃないだろうか?
僕はちょっとだけこのオンナを羨ましく思った。
それまでの代用品として、僕の汗ばんだ手のひら、か貸してあげないこともないんだからねっ!!かか勘違いしないでよっ!!
「……よし!」
ぱっ、と顔を上げたオンナが真っ直ぐ僕の目を見た。不意打ちだったので避ける間も無くぶつかる視線。
「おお出る出る!お前手汗すごすぎ!」
「しょしょしょしょうがないんだこれはっ!!たたた体質で!!」
「いいよ今さら。とっくにヌルヌルだし」
「いいいいからこっち、みみ見るなよ!」
「テレてんのー?言っとくけどもうヤラせてやんないから!残念だったねドーテー君!」
「ちち違う!!」
やっぱり3次元は理解不能!なんだこの豹変振りは!!まったく謎のジョブ・チェンジだ!!……はっ!!まさか……コレが噂の解離性人格障害ってヤツなんじゃ!!ちょっと……やだなにそれかっこいい!!正義のシリアルキラーがドキュンと解決!?ややややややっぱりスカート履いててもビュンビュン飛び回ったりするの!?するんだろうなあ!!
「いやー、悪かったね付き合せて」
「ぁ……べべべつに」
今ちょうどDQNオンナが炎で出来た剣を振り回していたところだ。別に悪くはない。
「帰るよ」
「あ、あああ」
「なんだよ?大丈夫だよもう……そんな顔で見ないでくんない?」
僕はどんな顔をしていたのか。サッパリ見当も付かないがきっと間抜けな顔をしていたんだろう。証拠にDQNオンナの整った顔までクシャッと崩れて、なんだかおかしな顔をしていたから。
「意外に利くのかもね」
「なななにが?」
くるりと背中を向けたオンナは星も見えない夜空に両手をかざし、深夜にも関わらず大きな声で。
「たすけてー!ベクトルマーン!」
と叫んだ。
「ななななぜそそそれをおおおっ!!」
「じゃ!あたし柚木カナ!忘れたら殺すからな!」
とん、と軽くアスファルトを弾くように細く長い足が駆けていく。どんどん小さくなっていく背中は曲がり角で完全に消えた。残された僕は特に寂しい訳でもなく、不思議とあったかくて……おでんって体感防寒すごいんだなあなんてどうでもいい事をボケッと考えていた
「……」
んー?でも結局よく分からなかったなあ。でもまあ。
「お巡りさんこっち!こっちから『たすけて』って悲鳴が!!」
ん?
「こっちかい!?……誰かいますかーっ!!」
揺れるライトの明かりは薄暗いアスファルトをなぞりながら間違いなくこちらに向かってくるではありませんか!!
「…………」
うわああああああああああっ!!
住民巻き込んでの治安維持、防犯意識の高さ!!お疲れ様です!!
それでは僕はこのへんで!!!!
初投稿でイマイチ機能が分かっておりませんが『お気に入り』やポイント(?)ありがとうございます!嬉しいです!