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ベクトルマン  作者: 連打
20/189

ナタで切るような誘惑

「ほら、おごり」


「ど、どどどうも」


『ちょっとまってろ』そう言われホントにボケッと待っていた僕は阿呆なのか?オンナの手にはぎっちり詰まったおでんの串が溢れんばかりの大き目のカップ。それを手渡されどうしたらいいのか分からない僕にDQNオンナは声を掛ける。


「でも変わってんな……チャラそうに見えてオタクって。完全に無駄使いって感じ。あっつ」


湯気が立ち昇るカップから牛スジを取り出しワイルドに齧り付くオンナの横顔は、さっきまでの威圧感は無かったかのように幼く見えた。


「さささっきは……なんで?」


僕のたどたどしい問いかけでも何が言いたいのか察したようで、アタマをワサワサかきながらバツの悪そうな表情でこちらを見る。まあ相変わらず僕の視線は曖昧に泳いでいるわけだが。


「今日中に使っちゃいたい金が余っちゃってさ。何でも良かったんだけど。こんな時間でお店も閉まってるし」


「……」


このオンナの口から『お店』と出てきたことに危うく萌えそうになった。あっぶねえ!!あっぶねええっ!!

しかし言ってる内容自体は僕にはよく理解できない。


「もももったいないよ」


「まあね。でも」



・・・・・・・・・・・・・

価値の無い金ってあるんだよ、オンナはそう言いながら大根に齧り付く。とことんワイルド、ここは食堂でも自室でもない往来だというのに。


「あ、そういやあんたの姉貴、新木古都なんだろ?」


「ううううん」


「どっちなのよ……まあいいや。あの堅物の弟かあ、……よく似てる」


「はははじめて、い言われたよ」


「そう?あんた女顔だし融通利かなそうなトコとかそっくりだと思うけど」


「わわわからないけど」


「いいなあ……あんな感じ。あたしもあんな風になりたかった」


「……?」


嫌味か?でもそんな風には見えないし。

ジジ、と街灯の微かな瞬きにうっすら照らされ一向に動こうとしないオンナ。人影も無くなって久しいというのに帰る気配ゼロ。多分このオンナは今僕が立ち去っても全く気付かないんじゃないか?そう思うほど虚ろな目をしてビルに背中を預けている。


「なあ」


「ななななに?」


問いかけはするもののやはり空虚な横顔。今の僕にはこのオンナがすごく小さく見えた。


「あんた童貞?」


「がぶばっ!?」


鼻から飛び出すちくわ。なんかつーんてした。つーんて。


「じゃなきゃオタクなんてやってないよねー」


「……!!」


あああああやまれええええっ!!全国の自宅警備の職にイソシム同志たちに謝罪しろおおおおっ!!

なんだその余裕の表情!!言っておくがぼぼ僕が本気出したら3次元の女なんかすぐだすぐ!!なんか吊るしたり足とかでされたり……そんなんだろ!?ららら楽勝だよラクショー!!イメトレ何年やってきたと思ってんだコノヤロウ!!


すくりとジーンズのケツを叩きながら立ち上がったDQNは「さて」と呟きながら僕の方を見る。


「相手してやるよ」


と、『ショーユ取ってくれない?』的なテンションで僕の袖をそっと握った。


「いや、おことわりします」


びくり、と握った僕の袖から伝わる振動。見開かれた派手な瞳。


「いや、だからさ」


「おことわりします」


ぽりぽりとアタマを掻くオンナ。なにやら深呼吸をしているようでTシャツの胸の辺りが激しく上下する。


「いいか良く聞いて。あたしB86(D)W57H85で完璧モデル体型なの。てかたまにモデルやってるし。理解した?」


「ははははい!」


詰め寄る迫力が半端無い。さっきまでの様子が一変、ただのDQNに変化を遂げている!!


「言い寄る男もいっぱい。それこそ学校でも街中でも、スカウトなんかしょっちゅう」


「はははい!りょりょ了解しししました!おお綺麗だと思います!!」


派手な装飾もコダワリと言えばコダワリだ。毎日毎朝かなりの時間を割いているのだろう。そしてその上でのスタイル維持。その辛さは僕にも経験があるので多少わかる。その徹底振りは尊敬できるコダワリ気質だ。


「そのあたしが相手しt」


「おことわりします」


ぶるぶるとわななく唇。かなりの圧力が加わっているんだろう歯軋り。あ、ちょっと涙ぐんだ。


「……黙って聞いてりゃこのオタクヤロウ!!なんで拒否る時だけ噛まずにスラスラしゃべってんのよ!!」


あ、そういえばそうだ。不思議なこともあるもんだな。

僕は胸倉を掴まれながらも割りと冷静にそんなコトを思う。


「こっちは善意で言ってあげてんの!わかる!?」


「なななんとなく」


「じゃあ断る理由ないんじゃないの!?」


「でででも」


「でもなによっ!!」


「べべべつにセックスしししなくても、なななにか辛かったんなら、はは話してみればいい、いいんじゃないかな?」


胸倉にぐっ、と込められた力には大して威圧感を感じられなかった僕は……どうんとした重量を持ったオンナのアタマが僕の胸に当たっても断続的なオンナのしゃっくりのような声が聞こえてきたところで。


もう怖いと思うことはなくなっていた。











■゜Д゜■゜Д゜■゜Д゜■゜Д゜■゜Д゜■゜Д゜■■゜Д゜■゜Д゜■゜Д゜■

   ハ,,ハ

 ( ゜ω゜)     n

 ̄     \    ( E) お断りします

フ     /ヽヽ_ /


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