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ベクトルマン  作者: 連打
19/189

パカ

「いぃやっふううううぅっ!!」


コンビニ帰りの薄暗い路地裏で僕は勝ち鬨を上げる。さあ歌え!踊れ!幸運の女神のケツを蹴り上げろっ!!

おつりの200円、それを投入した瞬間手ごたえはあった。微かに心が震えたのを感じつつ、スロットを360度ムリムリっ!と回転!途端ゴロリとそいつは姿を現した!


それをオモムロに捻り上げカプセルを開放、中から出てきたのは○まごっち状のピンクの球体。そのド真ん中に配置された大き目のボタンをwktkしながら押し込むと……


『おー!』


『ぷちとまとボンバー!』


『なんだっけ』


次々再生される短い台詞の大洪水。僕は声オタではないのだがわかるよ!!君らの気持ちはわかるようっ!!ついつい連打してしまう中毒性があるよ!?ぽち。


『私が……いてもいい居場所がほしい』


あるんじゃないかな!!どこいってもいいんじゃないかな!?

なんだこのむずがゆさ!背徳感!上がったテンションのやり場の無さ!!この感情を「キモチガ悪い」と切って捨てるのは容易い。しかし無かったコトにするには余りにも衝撃はデカく、爪あとは深い!!

いかーん、ハマッってしまいそうだ。とりあえずコレを持って帰り姉に見つからないように速やかに中の人を特定するとしようじゃないか。んで落ち込んだときにそっとポチる……いいんじゃないかな、なんかいい買い物したなあ!!


がちゃり……かこん。



ん?

3台となりのカプセルトイの販売機。そこにいつのまにか人影参上。


がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。


おいおいおいおい。なんとその人影は機械的に次々お金を投入しぐりぐりとスロットを回す。そして中身を改めることなくすぐ脇に設置されたゴミ入れに放り込んでいた。


がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。


アレだけ回せば中にはレアモノも入ってるんじゃないのか?っていうか興味ないならそんなもの回すなよ。


がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。


…………。いや、いいよ別に。……僕に害があるわけでも無いから。でもさ、お金の価値ってあると思うんだ。


がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。


なんなら僕が人影が去った後で回収なり物色なりすればいいわけで。まあ多分やらないけど。


がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。

がちゃり……かこん。


「って!!あああんた!!」


「はぁあ!?」


パーカーのフードを目深に被っているので顔は分からないが、ほとんど水着のような面積しかないジーンズから突き出た真っ白く細い足、華奢な肩幅、どうみてもオンナ。オンナDQNだった。


「なな何が目的なのかしし知らないけど……しょしょ職人仕事にには敬意をはははらえよ!!」


「なにあんた……バカ?オタク?」


「ぼぼぼくがオタでばばバカなのは、関係ななない!!」


「ん……?あんた……」


オンナはフードをぱさりと脱ぐ。距離の開いた街灯の明かりでもすぐに分かった。


「カジと一緒にいた1年?」


自意識過剰なのは深夜であっても健在なようで、薄暗い裏路地に到ってもその睫毛や唇は不自然な威圧感を発している。んが!!しかし!!


「だだだから!!ぼぼ僕が誰といた何年生であああっても!!あんたがどどどこかの誰かのここコダワリを踏みにじったことには、かか変わりない!!」


「ちょ……おちつけよ。いきなりそんな」


「そそそんなポンポンすす捨てたら僕のおお雄たけびがバカみたいじゃないか!!」


「知るかよ……なに言ってn」


「そそそのか、カプセル一個一個に人を一喜一憂させるちち力があるのに!!あんたが捨てたそれ!!違う人にはか価値のあったモノかもし、知れないじゃないか!!」


「おいおい、あたしのハナシを……」


「才能のある人からささ、才能を認めた人たちへのバイパスをここ壊すなよ!!」



ああああ!!どんどんむかついてきた!!

そこでしか生きられない、そんな人たちはいっぱいいて……自分の殻からはみ出しても怖くても多分みんな頑張って折り合いつけてやってるのに。誰にも迷惑かけてないし彼らの生産活動を嗤う権利がこいつにあるのか!?あるわけない!!そんなもの誰にもあるわけないんだ!!



流れる沈黙。しかし引くわけにはいかない。なあに、沈黙には僕は慣れっこだ。

微妙な空気の中に存在する、まさにThe world!!さあ!!酸欠の金魚のごとくのた打ち回りやがれ!!


「……」


「……」


あ……あれ?余裕?

オンナは明るく染まった量の多い髪の毛をわっさわっさ揺らしながら僕を睨みつける。僕の心が早くも悲鳴を上げそうです!!ち、……沈黙こわい!!なんか言ってくれよ!!お願いします!!







「あーメンドクセー。なんなんだよお前は」


自意識過剰オンナは気だるそうにそう呟くとすっ、と路上に屈み込んだ。


「手伝えよ。サイノーなんだろこれ」


ゴミ箱からカプセルをひとつ取り出しパカと中身を僕に突き出す。


「持って帰るから。手伝ってくんない?」


「……あ、うん」


僕はゴミ箱に身を乗り出し中身の入っているカプセルを選り分けて取り出していく。ひとつひとつオンナに手渡し、オンナはパカリパカリと中身を取り出す。


「……」


「……」


薄暗い中での沈黙。パカリパカリと間抜けな音だけがコダマしている午前1時。


「ふ……ふふ」


暗がりでオンナの肩が揺れていた。


「あー!夜中になにしてんだあたし!パカパカパカパカ馬じゃねーっつーの!!」


何がツボだったのか?

オンナは妙におかしげに次から次へとカプセルをパカパカしていく。


「とうっ!!」  パカ


「うりゃっ!!」  パカ

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