〔カナ編〕やだねー(店長サイド)
「いや、だから……アキラちゃん?ちょっと?」
一方的に電話を切られた。
どうやら新木君は彼女の逆鱗に触れたらしく、至極お怒りのご様子である。
どうせあの手のオンナは一旦怒り出すと自分の意向に沿わないモノはオール却下で鉄板、いやハナから認める気すら無かったのかも。暇つぶしでバカを振り回し、ぷりぷり怒ってりゃ世話ねえよ。
一体何がしたいんだか……
「アキラサン?」
「ん、まあな」
いいかげん言わないといけないな。
美鈴がここに居座るようになってどの位だったろうか?まあコイツも敵を作りやすいタイプに見えたんで黙認していたが、そろそろ待機所に行ってもらわないといらないトラブル招く事になりそうだ。
しかしテンション下げられて仕事行かす訳にもなあ。
気分屋で根性はねじ曲がった……どこにでも居る普通の風俗嬢が美鈴だ。
「ユキトどうだって?」
興味本位か野次馬か。
そんなこと聞いてこいつはどうするつもりなのかね全く。ヒマならツイッターにでも写真上げて貰えないもんか?乳でも出してバカみたいなアヒル口してよ。
「ああ、なんかここに今から連れて来るって。怒ってたわ彼女。あんまり怒らせたくないんだけどなあ」
「駄目だったの?」
「駄目かどうかはアキラちゃんが決めるらしいから。ま、ハナから新木君には荷が重かったのかもな」
技術の問題じゃない。
『アタシの靴の裏を舐めろ』って言ってんだろきっと。やだねー。
そんなことも……いや、だめだな。そういう気の回るタイプじゃない。
でも、なあ。面白いヤツだったんだがなあ。
「てか連れてきてどうするの?」
「さあね」
まあ。
どうでもいい。
そんなものの結果がどう出たところで、店は今日も忙しいし万事オーケー。
「アイツ辞めたら店長困るんじゃないの?」
「なんで?」
「お小遣いとか」
ずーっとここに居れば要らない情報まで耳にしちまうか。まあしょうがない、特に知られて困るモノでもないしな。
「まあ確かに新木君が稼いだ売り上げは俺の取っ払い、そういうキマリなんだ。もちろん新木君の給料は引いた純粋な利益分のハナシな」
俺は誤解を招かないようキッチリ説明する。特に後ろめたい訳でもないのに隠し事っぽくされても後味悪いからな。
「ヤローの従業員なんてめったに来ないんだから、ボーナスみたいなものだよ。店からのね。でもまあ……無くなって困る金額じゃないな。微々たるものさ、美鈴達が生み出す利益に比べたら」
「ふうん」
ん、なんだ?
誰かの不幸で呼吸してるような美鈴だが、今日は表情が読めない。嗤うわけでも呆れるわけでも、ましてや喜ぶ訳でもない微妙な表情。似合わないツラに少しハラが立つ。
いつもみたいに下品な顔で撫で回された猫みたいにミャーミャー鳴けばいいだろうよ癇に障る。
「そんなことより美鈴、あまりここには」
「はいはい。真央待ってるだけだし。来たらすぐ待機所いくよ」
「……」
そうかよ。
俺はPCを眺めながらサイトの更新に励む。
面倒なことにならなけりゃいいのになあ、ああ面倒だ。
新木君も、もう面倒、美鈴もアキラちゃんも。
俺はただ。
まじめに働かせてほしいんだがなあ。