〔カナ編〕ちょっと引いた(理子サイド)
「……」
なんでだろう、なんて本当は分かっていた。
私そもそも向いてないんだろうなこういうの。
街の中を女子校生で連れ立って歩けば声を掛けられたり、掛けられなかったり。ふわふわとした落ち着かない浮遊感が、最初から……今でも消えない。
楽しいと感じたこともあるにはあったように思うけど、やっぱ据わりが心許なかったり。
その内みんなみたいに街の中で人恋しそうに大声で話したり、誰とも付かない噂話に一喜一憂出来るようになるのかなあ……なんて思ってたのに、わたしじゃ無理っぽいみたい。
コンビニの看板に照らされたわたしはちゃんと楽しそうに見えるのかな?
街の中でみんなと歩いていて、わたしだけひとりぼっちに見えたりしないかな?
そんなことがいつも気になっていた。
「見てよアレ!なんなん?」
誰かが往来で倒れているようで人垣が出来ていた。
珍しい事じゃない。よく見る光景。周りに嬉々として陣取っている男たちで知れる。女の人なんだろうなあきっと。奇声と呼んでもおかしく無いほどの高揚感を振りまきながら男たちは女性に対してコンタクトを取っていた。
「フツーに酔っ払い?」
「つまんね」
わたしと一緒に歩いていたコ達は興味を失い歩を進める。
どっちが酔っ払いなのか聞いてみたいような不安定な足取りで。
「さわんなっ!」
わたしもその後を追い付き従う途中の唐突な亀裂。
びく、とした。いやビックリした。
露骨な嫌悪感を隠さない叫び。夜の街に似つかわしくない男たちへの断固たる拒絶。
脇を通り過ぎようとしたわたしは思わず座り込んでいた女の子を見てしまった。
「ああーーっ!」
人さび指をわたしに突き付け楽しそうに顔を綻ばせる女の子。
……って、アリ?
「智香、ちゃん?」
「はーい!智香でーーす!!」
こないだは周蔵くんと会って、今回は智香ちゃんなの?
足元が覚束無いのか立ち上がろうとした智香ちゃんはわたしに寄り掛かるように身体を預けてきた。
「……」
わ、すごいアルコールの匂い。
そりゃこんな状態にもなるか、どれだけ飲んだんだろう智香ちゃん。
「トモダチ?一緒に俺らとあそばねえ?」
わたしと智香ちゃんをぐるりと取り囲む夜の街の主語とも言える男たち。
恐怖しか相手に与えないクセに欲望の発散だけは図々しく主張してくるヤカラ。
「……」
わたしのトモダチらしきみんなはとっくに姿が見えなくなっていた。男たちの中に興味を引かれるものがなかったんだろうなあ。わたしを差し出しさっさと退散、みんなお利口さんなのである。
「シカト?やだなあ俺ら紳士よシンシ」
「その子運ぶの手伝ってやるって。信用してよ」
いや、まいった。
しょうがない、アレつかお。
たまにだけど街中でトラブルらしきものに遭遇しそうになった時、切り抜ける為の魔法。
特にこの街で若い男たちには効果テキメンのようで、申し訳ないとは思いながらも勝手にお世話になっていた。
「ねえってb」
「わたしとこの子、梶先輩の友達だよ」
瞬間ヒヤリとした空気が淀んだ街の空気を寸断する。男たちから言葉が出てこないようなのでわたしは自分から発言することにした。
こういう場合畳み掛けるように話した方が効果はある気がしたから。
「別に泣きつくつもりじゃないけど、さ。ホラあのひと見境いあんまり無いひとだから……ね。やめとこうよ」
わたしの肩でぐったりしている智香ちゃんを引きずるように移動する。実はドキドキがとまらなかったりするけど、そんなこといってらんないしね。
「あ、あーじゃやめとく。ごめんね」
男たちの中の一人が遠ざかっていくわたしに向け拝むように自分の顔の前で手を合わせた。代表としての意見だと思う。
どうせ執着はないのだ。下手に揉め事起こして面倒増やすまでも無いし、ましてやケガなんて願い下げ。
そんなトコでしょうねきっと。
「いいよ。気にしないで。じゃーね」
魔除けみたいだ梶先輩って。とにかく助かった。
それにしても……どうしたんだろ智香ちゃん。こんなに泥酔するまでお酒なんか……
「……」
見ると。
智香ちゃんはコンビニの袋にお酒のビンを入れたまま握っているみたいだった。
「……わ」
大関のラベルが正面に貼ってある大きめのビン。
缶チューハイとか梅酒とか、もっと可愛らしいものあったでしょうに。
遊びの一切感じられないお酒のチョイス。
わたしは智香ちゃんにちょっと引いた。
「……」
のだが。
のであるが!
これってチャンス、です。
ちょうどいい!
わたしは智香ちゃんに聞きたいことがあったのだった。
是非とも問いただしたいのですわたし!