〔カナ編〕自由だし(藤崎サイド)
「僕パン買ってくるから先行ってて」
「リョーカイ」
新木はなにやら梶先輩に用があるとかで昼休みになった瞬間姿を消した。残った僕と智香ちゃんはいつも通り中庭で食事を取る事になったんだけど……カナ先輩はまだ学校に登校して来ず、梶先輩も最近は中庭には来ていない。古都先輩も同様だった。
「……」
でもまあ、ちょうどいいか。
僕は、というか多分クラスの生徒みんなの疑問を僕が代表して当人に直接聞いてみるのだ。今週に入ってから新木は毎日登校していた。それはいい、なによりである。
んが!僕は安堵なんか全くしていない!むしろハラハラしっぱなしの日々なのであった。
当人に探りを入れるとなれば早いほうが吉。階段を駆け下りると購買を目指す。さっさと買って中庭へ向かう……
「あ、藤崎君!」
途中呼び止められた。
「あれ、なんか急いでた?」
「まあね、でもいいよ。どうしたの理子ちゃん」
理子ちゃんは珠に廊下ですれ違う程度、その時だって僕を呼び止めたりはせずいつも周りにいる友達たちの隙間から伺うように眺めるだけ。急いではいたんだけどその珍しさに立ち止まる。更に珍しい事に今日は一人のようだった。
「ちょっとコッチ」
理子ちゃんは僕を下駄箱の裏側へと押し込むように促す。足元の板張りがガタガタと耳障りなはずなんだけどそんなこと気にもしていないようで、そんなに僕といるところを見られちゃまずいんだろうか、と被害妄想に囚われる。
新木ならいざ知らず僕まで未だにこんな扱いなのかと。
「ふ、藤崎君?」
「いやなんでもないよ。なんか大事なハナシ?」
「あ、や、そういうわけでもないんだケドさ」
うむ、これはもうアレだ。アレしかないだろう。
僕は背の高い下駄箱の裏でこっそりとひとりごちる。その疑問、まさに僕が智香ちゃんに問い詰めようとしていた事なのだから。
「周蔵くんて……その」
「僕も分かんないんだ」
「え?」
「智香ちゃん、でしょ?」
「う、うん。なんか雰囲気が」
「だよねえ」
あからさまにあの二人に張り付く違和感。完全にデキテる感を最近の二人からビシバシ感じるのである。前回智香ちゃんは新木の弁護のためとはいえ『付き合ってる』デマを流しまくりカナ先輩に泣くほど怒られたはず。でもあのときとは何かが違う。決定的にさえ感じる強烈なピンクのオーラがうっとおしい程だ。
「でも、あの、わたしは周蔵くんが誰と付き合おうが構わないよ!?そんなの自由だし!?」
クラスも違う、ほとんど会話もないようなオトコの事にここまで赤面しながらおっかなびっくり話しといて『自由だし』も無いものだ。理子ちゃんが辺りをきょろきょろしながら挙動不審者の装いを見せているのは、友達に見られたくないだけでは無い気がするなあ。
「でも、ほら、わたし古都先輩に怒られちゃってるし、今更何言ってんだってカンジなんだろうけど」
まだそんなこと気にしていたのか。
古都先輩だって本気で言った訳じゃないんじゃないかなあ。ものすごく自信ないけどさ。
「でも、あの」
僕はあたふたしっぱなしの理子ちゃんを見かねて言葉を吐き出す。
「ちょっと智香ちゃんに聞いてみるよ。わかったら理子ちゃんにも教えてあげる」
「ホント!?」
途端キラキラしだす理子ちゃんの表情。相変わらず素直なコなのは変わっていないようだった。
そこは僕だって知りたい。今新木は
・・・・・・・・・・・・
そんな場合じゃないはずだ。
きっとなにかある、僕はそう思っていた。ほとんど勘だけどなんだか当たっている気がしている。
仮に付き合ってるのであれば。
ずっと楽しそうな表情で新木を見詰める智香ちゃんの視線、そのさきにあるはずの新木の笑顔を。
僕は見たことが無かったからだ。