異様。異質。胃痛。
ずるずる、ずるずる。
ずるずる、ずるずる、ずるずる、ずるずる、ずるずる、ずるずる。
「……」
異様。異質。胃痛。
姉の意図が全く理解できない。人間は『分からない』『理解できない』モノは取り合えず排斥するのが人類の歴史とハリウッドの伝統なのだが……あいにく僕はマッチョマンでもタフガイでもない。よってなんら対抗手段は浮かばない。お手上げ、白旗、テン・カウント。
んが!せめて死ぬときは前のめり!せめてこの姉の奇行の訳くらいは知りたいわけで。
「ああああの……」
「私寝るときブラしないけど欲情したら警察つきだすよ」
「……」
そう言い放った姉は自室から僕の部屋までずるずる運んできた布団にさっさと潜り込む。しかし前だか後ろだか分からない粗末なぼでーの分際で『欲情』とは……姉であることを差し引いても充分痛々しい。
「って、ななななんのつもりだよ!どどどうしたんだよ!」
姉に自覚と精神鑑定を促すのはまたの機会に!今は差し迫ったこの状況をなんとか打破しなければ!!
「あんたは人と距離置きすぎ。そんなんじゃいつまでも対人恐怖症治んないよ」
「だだだからってなななんで」
「ほらその汗。ドモリ。家族相手にそんなことじゃあんたの学校生活心配なのよ。せめて私相手に練習しときなさい。触ったら殺すけど」
触ってたまるか気持ち悪い!!僕のプライベート空間は!?男子のデリケートゾーンをどうしてくれるんだよ!?横暴だ!!ウクライナの秘密警察かこいつは!!
「……」
「周蔵?」
僕の脚は実に自然に部屋の扉へと向かう。敗者は去るのみ、いや別に負けたわけじゃないとは思うんだけど。
「ちょちょちょっとコンビニ行って来る」
「あ、私抹茶オレ買ってきて」
「え……でででも」
「寝ないで、ま・っ・て・る・か・ら!」
「ひ、ひゃい」
もはや退路は絶たれた。
なんて素早い包囲網。姉はよく言えば意志が強く、悪く言えば頑固娘。意志決定に到るまでの道筋でかなり考え抜いて行動に移すタイプなので、一度決まってしまうと姉自身も自分で決めた決定に振り回されるほどの融通の利かなさ。
なので僕なんかが何を言っても姉のイカレた行動を修正するなどムリ!!
この時点での『悪』とは姉の決定に従わないモノ全て!!プーチンばりの強権主義者、それが新木古都(18)なのだ!!
僕は地面に肩が付くんじゃないかってくらいがっくりと、深夜のコンビニを重い足を引きずりながら向かったのであった。