〔カナ編〕最大限の敬意
僕は友達を助けたいだけなんだ。
枕もとの照明パネルを一つだけ押し、薄暗いままの部屋の中で僕は思い出している。
「……」
考えるのをやめた。
普段はあまり気にしたことが無かったんだが、普通の映画もあるんだなあここって。僕は大きめのリモコンを手にプチプチと押してみる。すると……普通にネットも出来るようになってるしカラオケや軽食の注文までこれで一括管理しているようだった。
「……」
僕には智香がシャワーを浴びる音が微かに耳に届いている。
ささやかな照明の薄暗い部屋で僕はベッドに座っている。
内開きになっている窓は申し訳程度にしか開かないようで、ずらすように空けてみると忙しない夜の街の喧騒がぬるりと始まる。
「……」
良いのか悪いのか。
バカな僕なんかには分からない。だから考えたって無駄なんだ。
目的に向かっている行為なんであれば正当化できる、間違いない。
僕がユズキカナを助けたいのと同じように、もしかしたらもっと強い気持ちで智香は身体を僕に預けたんだ。
僕はただ……
「……」
意図的に、確信をもって僕は智香を見よう。
なんとかするんだ。
絶対になんとかするんだ。無駄になんか出来るわけがないこの時間、この件が全部終わった頃には笑って話せる筈なんだ。
みんな笑ってサンドイッチでも食べながら……僕はカレーパンに齧り付きながら『夏休みどこかにいこうか』なんて高校生らしい選択肢にみんなが頭を捻る。
そんな場所に僕もいられるかも……そう思っただけでガンバレる。
僕は
「……」
どうかした?、そう僕に向けて呟いた智香はバスタオルを身体に巻き付けたままの格好でバスルームから出てきた。
「どうか……って?な、なんかヘンかな」
もうほとんどクセになっている。
僕は作り物の薄っぺらい笑顔でベッドに座ったまま智香に向き合う。
「なんか悲しんでるみたいに見えたから」
薄暗い部屋に立つ半裸の智香は、僕の作りものの笑顔よりは数段上等なテレ笑いを浮かべていた。
「……ってかシツレイじゃない周蔵君?目の前にこんなかわいい女子高生がほぼ裸で立ってんのにリアクションなし!?」
智香はイイヤツなんだろうなあ。
ユズキカナを助ける為とはいえこんな僕みたいなバカ野郎に付き合ってこんなことまで……加えてこんな状況でも努めて明るく振る舞ってくれている。
「ごめん!ようし、は、はじめるかあ!よろしくお願いします!」
「うむ!この経験豊富なイマドキJKであるこのわたしが周蔵君にコーチしてあげるんだからありがたく思って、今後は普段からわたしに最大限の敬意を払うこと!いい!?」
「ら、らじゃ!!」
僕はバカなんだろうか?
智香は強いんだろうか?
音も無く智香に捲かれたバスタオルが床に落ちるのを眺めながら、僕はせめて未来の僕らの笑顔を願った。
叶え、って。