〔カナ編〕お願い(智香サイド)
「……どう思う?」
「どうっていわれても……少なくとも疲れてるんだろうなってのは分かるね」
節穴オトコめ。
どうやら藤崎の顔にはスーパーボールが二つはめてあるらしい。ま、得てして男ってのは時にびっくりする位鈍感だったりするから、脳の構造自体繊細な問いには向いてないのカモ。
わたしは更に注意深く机につっぷしている周蔵くんを眺める。
「……そんなに気になるのかい?」
そんなわたしを注意深く見ていた藤崎が、えらそうに足を組んだ姿勢で身をくねらせるようにわたしの席に向き直す。
この朝の始業前、まだ登校している生徒の少ないこの時間帯こそが周蔵君に探りを入れるほとんど唯一のチャンスだというのに!なに悠長に構えてんのよコイツ!
「だってカナちゃんまだ学校来てないじゃん。周蔵君なんか知ってるんでしょ?」
「うん多分ね。で、さ」
なによ?あ、周蔵君いまピクってした!マジ寝入り突入しちゃったじゃんかあ!
最近学校来てもほとんど寝てるし、眼の下のクマすごいから話し掛けるの気が引けるんだよねえ。
「梶先輩に言われてるから」
「なにを?」
「しばらくホッとけってさ」
「は?周蔵君をってこと?」
「そ」
「ヤ」
いや、マジなんだって、とか
そんな藤崎の世迷いごとなんか聞いていられない。
きっとまたなんかあの変人はどこかで暴走しているに違いないのだ。わたしだって毎回毎回蚊帳の外に甘んじているほどモブでは無い。
おそらく、多分。
いやいやいや、絶対、ぜーったいに!
カナちゃんは(カナちゃんはどうおもってるか知らないけど)わたしにとっても大事な先輩であるし、友達なんだ。わたしに出来ることがあるなら、相談してほしいし力になりたいとも思う。
「ヤバいんだっていろいろ。梶先輩でも様子伺う位しか出来ないって」
「なにがよ?全然わけ分かんないんですケド」
「分からない方がいいんだってば」
「い・や!で?藤崎はなんにもしないってわけ?つめたくない?友達じゃんか周蔵君もカナちゃんも」
ヘタレ、ここに爆誕。
分かってはいたけどここまでだったとはね。
ちょっと先輩にビビらされただけで困ってる友達に放置プレイなんて。呆れた、いやマジ呆れたよあんたには。
「僕は梶先輩に『お願い』されたんだ」
ビビってるだけのくせに。
なんでこのヘタレこんなエラそうなの?なんなのマジで?
「頼むからヘタに動かないでくれ、って。『お前らバカだからクビ突っこもうとするだろうけど、頼むから堪えてくれ』ってね。僕は了解した、だから僕に出来る事は」
「……なによ」
お前『ら』。
この一文字がわたしには大事なんだ。わたしだってみんなの友達だから。
梶先輩やカナちゃん、古都先輩みたいなグループの一員なんだから。
だから、わたしだって。
「僕は……新木の味方でいるんだ」
「……なにそれ」
「文字通り、そのままだよ」
「……」
なに達観しちゃってんのよヘタレのくせに。ほっとくなんて出来ないし、したくない。
こんなヘタレと話してもラチが開かないことだけはハッキリしたし、それだけ分かればもう藤崎と話すことなんかない。
みてなさいよ。
わたしだって。
みんなの役に立てるんだから。