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ベクトルマン  作者: 連打
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〔カナ編〕言わせない



「まずイッコめ」



「だから!聞いてねーし!ってかヒトの話聞いてんのあんた!?」



次の瞬間には全部ブン投げてしまいそうになる。

僕には……冷汗かきながら何やってんだ?って呆れているもう一人の自分が常にいるのだ。

でも、こんなことすら僕にはものすごい重責に感じてもいる。元々コミュ障で引きこもりデブの僕がほとんど口も利いたことのない異性に対してケンカ腰の『討論』だなんて、しかも引く選択肢は初めから無い危機的状況だなんて。



でも……やっぱりこういうメンドクサイところを全部スッ飛ばしてきちゃったから今の僕の惨状があるのは間違い無いわけで。



「真央さん……っていうか、まあこれは人気のあるコンパニオンのコ全部のことでもあるんだけど。忙しいコがいっぱいいるって事はさ、お店も儲かるんだよね当然」



「そうなんじゃねえの!?知らないよお店の利益の事まで!」



「利益の出た分広告費用なんかも増えるんじゃないの?このネット時代ページ単価10万なんてサイトもある位だし。儲かってないと載せられないと思うんだ」



「あのねえ、サイト載せたからってそんなすぐ効果出るもんじゃないのよ!」



「の、載せなきゃゼロじゃんか。しかもじ、自分のお金じゃないのに宣伝してくれるんだからあんたらにはメリットしかない。しかもその費用は真央さんや人気のあるコが負担している場合の方が多そうに思うんだけど」



ふー。

深呼吸深呼吸。

僕はケツで掌の汗を拭った。ハッキリ言って全部予想に基づく想像なのだから、話にならない位の見当違いをしている可能性だってある。いや、むしろそっちの方が有力な線である。



しかし。



「わ、わたしらには関係ないじゃん、そんな経営のことなんか」



もちろん僕にだってそんなこと関係は無いし積極的な興味も持てない。でも彼女らの反応を見る限り、そうそうトンチンカンな線では無いらしい事を感じて少しだけホッとする。なにしろ思い付きで喋ってるもんだから自信無さ過ぎてなー。



「ん、んじゃニコ目」



「……」



「みんなで出てく場合。たまに待機所に誰もいなかったりするけど……あれっていっぺんに客が来たって感じなのかな」



「……ま、まあな。そんなこともあるよ。団体客ってヤツ」



「ああ。そ、それはホラ。人気者だけじゃどうしようもない。単純に頭数の問題だから」



「それは話が逆だろ!?あたしらが役に立ってんじゃないの!!」



「そ、それだって『機会』の問題でさ。可愛くて人気のある子のいる店に行きたいのは……あ、当たり前でしょ?」



「……てめえ」



「あ、だ、だからってあんたらが役に立ってない訳じゃないんだ。『みんなでいけないならやめとく』って客だっているだろうし」



僕のしている仕事と彼女らのしている仕事は同じようで少し違う。客が男性か女性であるかの差は小さくない。

そのひとつが『団体客』の存在である。女性はまず連立って性欲を解消しようなんて発想が無いのだ。客が女性である場合、その質は極度に陰に籠る。精神的に『クる』のだ。

男の従業員が暫くいなかった、そして今だって僕だけである理由もなんとなくだけど、解る。



「結局さ。あんた何が言いたいわけ!?わたしらに辞めろってこと!?悪いけどありえないから!!」



まあ僕はそれでも別に全然構わないんだけど。

でもなあ。こんなに話って通じないもんなんだなあ。そりゃ宗教戦争だってなくならないよなあ。



「ああ、じゃ、じゃあ最後。最後の『真央さんが辞めない方がいい理由』ね」



さっき言った二つは、言わば方便である。元より『仕事ではない処』で彼女らは真央さんを排除しようとしているのであって、こんな理屈が通じるなんて初めから思ってない。

『店側の立場から語る』必要があったからやってみただけだ。



もううんざりしている表情を隠しもしない彼女らに向けて僕は言う。



「ここで真央さんを追い出したら、あんたらのうちの誰かが近い未来次の標的になるよ」



「……はぁあ!?なんでよ!?」



なんで、とは恐れ入る。

気が付いてないとは言わせない。



「あんたらは、実は『人気がある人間を妬んで』なんかないんだってこと。他人を優位な立場からいたぶりたいだけなんだ。楽しいんだろうねそういうのってさ」



「きらいだっつってんじゃんかソイツが!!誰が理由もなくそんなことするかよ!!」



「トぼけてるのか嗤ってんのか知らないけどさ。気がつかないと思うの?あんたら生まれてから今まで寝てたのか?今来たのか?」



「ワケわかんないんですけど!?『いま来た』って何!?」



「いや、だから『今来たのか?』って聞いたんだけど」



「どこによ!!」



「現代ニッポンにさ」



「はぁあっ!!??あんたいったい……」



「ありえないんだってば。今まで生きてきてその『ベクトル』に気が付かない、なんて無い。絶対に無い。腹芸は面倒だからしないよくだらない」



無自覚でした、なんて言わせない。

ソレまで有耶無耶にするつもりなら、これはもう正面衝突してでも認めさせる。

被害者も加害者も擦りガラスの向こうでボンヤリしてよく見えませんでした。ちゃんちゃん♪



まったく、アホか。



「ちょっとゆきとん!ゆきとんって!!」



「あ、ああ真央さん」



「なんか途中からおかしいよゆきとん……完全にこっちがケンカ売ってるみたいなんですケド?」



僕の袖をぎゅ、と掴んではなさない真央さん。そこまで怯えてるわけではないようだけど……まあそろそろかなあ。

若干消化不良は否めない感じではあるが、しょうがないか。



『あ、あーみんな聞こえるか?』



ほいきた。

覗き趣味のテンチョーの登場だ。ここを今見てないわけがない。

だからわざわざさっき『店の都合』を代弁したのである。立場上あんたが普段言い難い事を伝えてあげたのだから、多少僕のフォローはしてもバチは当たらないでしょ?



うまいこと納めてもらって、この件は一件落着だ。



ああ、しんどい。






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