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ベクトルマン  作者: 連打
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〔カナ編〕そうだそうだ(奈美サイド)


店長が当たり前のようにパソコンを操作して待機所の覗き見を始め、20分過ぎたくらい。

わたしも店長の後ろから画面を覗き込んでいた。



「……」



突っ立ったまま、だ。店長はとことんわたしに向ける興味は無いらしい。

画面の向こうの待機所の騒音に、仕事もせずに見入っている。なんにも面白いことなんか起こらないってのにさ。

あんなイジメラレっこのオタク野郎に何期待してんだか知らないけど。



『も、もう一回聞いていい?』



『なんだよ!マジしつけーな!』



見てよオロオロしちゃってさ。ブザマー。

外見みたいに中身は変わんねーんだよね。中学ん時のチョークの粉ぶっかけられてた光景そのまんま、やっぱだっせーアイツ。



「ふーん」



店長は頬杖を突きながら灰皿の乗ったテーブルを指先でノックする。ほーらね、もう退屈してんじゃん。



「意外だな」



店長の呟きはわたしに向けられてはいない。独り言のつもりのような音量だったし、わたしの事なんかここに居る事すら気が付いているのかも怪しい。でも。



「……なにが?」



言葉を交わしたい。そんな画面どうでもいい。バカ同志つぶし合いしてるだけじゃん。

そんなことより、わたしはこっちを見てほしいんだけど。



「ん、ああ美鈴居たのか。いやあ、新木君って……なんつーのか、もっと一方的な人間だと思ってたからな。この光景は予想外だった」



「イッポウテキ?」



「ああ。見ろよ。必死で相手の話を聞こうとしてる。この手の問題は解決なんて出来ねえってのにな」



「あれ?期待しちゃってたんじゃないの店長?解決出来ないって思ってたんだ」



一度くらい振り向いてよね。



「こんなの俺だって無理だ。結局女のもめごとなんて理屈じゃねえからなあ。首突っ込んだだけ損する」



「じゃあ一体なにをアイツに……」



急にわたしの目の前に突き出された店長の手のひら。どうやら『黙れ』って事らしい。随分熱心に画面見てるけど……もうわたしは興味ないわソレ。どうでもいい。みんなさっさと辞めてけばいいんだって。


うっとおしいからさ。



『よ、要約すると……あんた達は真央さんにここを辞めてほしい。合ってる?』



『そうだよ何回言わせんの!?目触りなんだよ!!』



『真央さん辞めたらあ、あんたらが得するの?』



『そうだね、その子の仕事こっちに回ってくるかもしれないしねー。ライバルは少ない方がいいってカンジ?』



…………。くだらね。

だからてめーら仕事ねえんだよバーカ。



『そこが、よ、よく分らない』



『なにがだよ!?』



『こ、こういうお店ってまだ他にもあるんじゃないの?、たくさん』



『だから、何がわかんねえんだよ!?』



『真央さん目当ての客なら、ま、真央さんが移ってった店を利用するんじゃないの?《じゃあおんなじ店の違う子に》ってなるかな?い、いやあ、ならない気がするぞ?んん?』



…………。



「おいおい!きっついとこエグるな新木君!」



…………。



店長は今にも笑いださんばかりに膝を叩いて喜んでいる。あのバカは多分本当に分からないから聞いているんだろうけど……店長の言う通りそこは『キツイ』。

客は店じゃなく女に付いていく。真央がいようといまいと正直関係ないんだなーあんたらには。ま、そんなことも分からないからいっつも待機所でポテチ喰ってんだろうけど。



『だ、だからなんだってんだよ!待機所で男にさかってるような女と一緒に働けるかよ!』



『真央さんは僕にお、お金払ってたよ?いらなかったから返したけど。つ、つまりそういう決まり事があるんじゃないのかな。おんなじお店で誰か利用するときは倍額……ってことは別に禁止じゃないってことじゃないの?あれ?違うの?』



ぐりぐりと音量と音質を調整しながら画面を食い入るように見つめる店長。最近ちょっとないくらい楽しそうな表情で。

店長にはわたしの存在なんてこっれっぽっちも残ってなさそう。



「そうだそうだ!言ってやれ新木君!」



「……」



確かにそういうルールはある。

ま、男の従業員が居る期間ってホントちょっとしか無かったから今まで誰もヤんなかっただけで。てか、すぐやめちゃうんだよねオトコって。まったく根性無いったらねーわ。



『嫌いなんだよソイツが!私らが真央のこと嫌いだから消えてほしいワケ!!もう満足したユ・キ・ト・くん!?』



『……』



あーあ。

バカのくせに変に正論言うから。最終的にはこうなんのよ、こういうのは理屈じゃねーし。はい、しゅーりょー。



『ってことは……その理由って《仕事》は関係ない?僕の知らない、仕事に対するなんらかのこだわりをあんた達は大事にしてて……真央さんが知らない間にソレふんづけてたワケじゃないよね』



『コダワリ?何言ってんの?』



『あ、ああ。こっちの話。んじゃあ今から僕があんたらに《真央さんがここで働いた方がいい理由》を言います』



『はぁあ!?き、聞いてねーし!!』



『まあまあ。ど、どうせ真央さんはココ辞めないし聞くだけでも聞いてみて』




はぁあああっ!?


って画面の向こうでは金切り声の大合唱。何言いだしてんだあのバカ。



「ホント意外だなあ」



店長が感心したように画面を見ながら頭を掻く。


…………。



ってか、正直わたしも店長とおんなじ感想を持ってしまいそうになってた。

言ってることはしょーもないんだけど……なんか違う。



中学時代の気持ち悪い汗デブ。

同窓会でのイッちゃってる感丸出しの逆ギレ。



どっちが出てもこんな展開にはなってなかった。

新木と真央は退店、バカ3人も居辛くなってどっかに移籍。コレが既定路線だったはずなんだけど。



ソレ以外無いはずなんですけど!!

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