〔カナ編〕無いくせに(奈美サイド)
全く。
あいつアタマいいんじゃないの?人の話全然理解しないんだけど。
まあアレか。『成績と頭の良さは別もの』ってヤツか。まあ確かに外見は多少良くなったかもだけど中身がアレじゃあねえ。カナも随分マニアックな趣味してるわ。
「ん?どうした?」
「どうしたじゃないよ店長」
わたしが何か言ってもこの人には通じない、そんなの解ってる。
でもどうしてもなにか言ってやりたかったわたしは、店長がいつもパソコンイジッてる部屋に来ていた。
「店長なんで止めなかったのよ?」
「なにを?」
「どうせあいつらここのパソコンで待機所見てたんでしょ」
「ああ。うるせえのなんの」
「いま待機所モメてるよー。真央が的になってる」
「そうか。まあ、ありゃいい標的にはなるだろうなあ。新木君にやたら積極的に迫ってたし」
わたしに振り向きもせずモニターを覗き込む店長の背中。いつもの光景、いつもの背中。わたしの言うことなんかまともに聞こうともしない。
「なんでほっといたのよ。真央辞めたらどうすんの?」
「困るなあ。あの子最近評判良くなってきたし」
「それだけ?困るだけ?」
「この業界、出たり入ったりは日常だろ。今さら何言ってんだよ美鈴。人の心配なんて似合わないことしないほうがいいんじゃないのか?」
細身のスーツを着込んだ店長から出る言葉は、その見た目通りに細く痩せている。誰に対しても。
……カナには。
そんな言葉吐かなかったクセに。
「店長なんであいつらクビにしないの?全然指名もないしお店にとってマイナスしか無いじゃん」
「あいつら?」
「待機所に住んでるみたいなヤツら」
「違いない。家賃でも取るか?一泊5千くらいで」
ヘラヘラと声だけで嗤い、あとはモニターとにらめっこだ。客を呼べないコンパニオンになぜこの店長はいつも何も手を打たないんだろうか?どうせ家賃も取る気など無いだろう。
「……今ユキト向かわせたから。揉め事大きくなるよきっと」
困ればいい。偶には真剣に困ればいいんだ。
こじれにこじれて真央もユキトも、あの待機所の連中も辞めてしまったら……店長は困るだろうか?
わたしとちゃんと会話してくれるだろうか?
カナがくる前の、昔みたいに。
「おう、調子出てきたな美鈴。真央の心配してたのはフリだけかよ」
「悪い?」
子供っぽい、なんて解ってる。
わたしは店長を困らせたいのだ。新木なんかが出て行ったって何の解決にもならない。当たり前だ。
だってあいつは只のデブオタクのいじめられっこでしかないのだから。
笑っちゃう。
「でもなあ美鈴」
「え?」
「俺は新木君割と好きなんだよなあ」
「……キモ」
やっとこっち向いた。
向いたと思ったら、なによそれ。
「ひと暴れ、しねえかなあアイツ。期待しちゃうなあ」
なんであんなバカに期待なんかしてんのよバカじゃないの?
なんでそんなに楽しそうなのよ。
わたしの事で、そんな笑顔見せてくれたこと、
無いくせに。
…………。
大嫌いだ。
新木も。
カナも。