〔カナ編〕ヘンだ(智香サイド)
……。
やっと出てきたか。カナちゃんも来てなくて周蔵君まで学校来なくなっちゃったもんだから藤崎が落ち込んじゃってうっとうしい事この上無かったんだけど……てか、なんでアイツが落ち込んでんのよ?
なんか事情アリみたいな感じだったから聞かなかったけどさ。まあ古都先輩がどっしり構えてるから私はあんまり心配してなかったけど。
『あ、あ、ああああらああきいいぃい!!』
教室で周蔵君を発見した藤崎は絶叫しながらBL紛いの抱擁で朝から暑苦しかったなあ。授業が始まってやっとおとなしくなった藤崎は、それでも何度か周蔵君を自分の席から眺めていた。ああキモイ。
「……」
私は黒板に沸いて出るように描かれていく数式を自動書記のように自分のノートに書き写していく。この辺りはもう慣れたものだった。考え事しながらでも手は勝手に動いていく。ま、ソレぐらいできないとこの学校の授業付いていけないんだけどね。
「……」
周蔵君、随分痩せたなあ。もともと肉付きいい方じゃなかったのに更に削られてしまった感じ。全く何してたんだろあのヒト、またとんでもない事に首突っ込んでなきゃいいけど。それに……カナちゃんと連絡付いたのかなあ。
「?」
私は上着のポケットに入れてあったスマホの振動に気付き取り出す。私は最近ずっといつでも電話、メールがすぐチェック出来る様にしていた。いつカナちゃんから連絡あるか分かんないし。
メールだ。
『新木君に挨拶されちゃったー(ノ≧ڡ≦)
久しぶりに顔見れて超ラッキーって思ってたら
目が合ってそしたら【おはよう】だって
きゃーーーーー(ღ✪v✪)』
…………。
やかましい。
私は瞬時にそのメールを削除する。能天気に浮かれてるんじゃないわよ全く。
大体誰なのこのコ?恋愛相談した女の子の中の誰かなんだろうケドいちいち顔まで覚えてないってんのよ。
「……」
私は黒板を自動で板書しながら、思う。
周蔵君確かにヘンだ。
あの変人が、妙に人当たりがいいのだ。あの変人が、だ。
授業が始まる前、教室で私は見た。前の席の女の子の肩に付いていた埃を後ろに座っていた周蔵君が取ってあげていたのだ。その光景があまりに現実離れしていたんで逆に脳裏に焼きついてしまった。
『え……ああ、ありがとう新木君』
テレながら周蔵君にお礼を告げるクラスメイトの女の子。隠れファン急増中である変人の唐突な急接近に、女の子は口半開きで対処に困っていた。見かけだけなら物凄いイケメンなのに、そのキテレツな行動力で全てを遠ざけていた周蔵君。実は本人が思っている程周蔵君は校内において嫌われてはいないのだ。
女の子からの周蔵君への相談件数は梶先輩にも迫る勢いだし。
『ホコリ払っただけだから』
そう言った周蔵君。これだけでも驚くべき行動なんだけどここまでは、まあいい。許容範囲の内側だった。
しかし。
『あ……』
瞬間絶句するクラスメイト、そりゃそうよ。
だって周蔵君。
ゆったり……笑ってたんだもん。あれは反則だ、卑怯だ。誰だって言葉なんかどっか逝っちゃうし。
私だってあんな顔で笑いかけられたら平常心でいる自信は無い。あのクラスメイトのように顔を真っ赤にして俯いてしまうかも。
……。
一体、どこでなにしてきたらあんな風に雰囲気が丸くなるんだろ?
なんかヤツれた感じもいい具合に力が抜けて見える。いつもの力みが薄らいで棘が取れてるみたい。
…………。
ああ、あんなに黒板進んでる!
やばいやばい!
私は今は本腰入れて授業を受けることにする。