タラちゃん的なアレ
「なんの罰ゲームなんだよそれは?」
春の陽気に煽られた万力ゴリラの提案で、僕らは四方を校舎に囲まれた中庭で芝生の上にペタンと座り昼食を取ることになった。各々購入したパンやら惣菜やらを自分勝手に頬張るが、僕にひとつ問題が浮上。
「そんなにおんなじ物ばっかり食べるの?」
「……」
訝しげな表情をアカラサマに僕に向ける理子とDQN。まあそれはそうだろう。ギトギトのカレーパンばかり5個。そして1個と半分を消化した時点で止まる僕の手。ついクセでほとんど無意識。久しぶりに見た油でテラテラ怪しい光を放つカレーパン、買わない理由があのときの僕には思いつかなかったのだ。
「さすが元デブ。買ったはいいが昔みたいにはいかねえってか?」
吐き気がする。イヤまじで。
「デブ?誰がですか?」
小さなスナックパンをもふもふ頬袋に詰め込んでいた理子がその作業の休憩がてらDQNに問いかけた。
「周蔵だよ。こいつの姉貴から聞いたんだが100キロ越えてたんだってよコイツ。170そこそこしかねえくせに」
「またー。冗談ですよね?だって今のシューゾーくんに私の体重言う勇気無いですもん。勝っちゃいそうで」
「いや、マジらしい。俺もびっくりしたよ」
姉は……まあ僕のコトは秘密にしておきたかったんだろうが、カラオケの一件で自ら暴露した僕には特に隠す理由も見当たらない。わずかなコンプレックスは持っていたがそもそも僕のフォルムが円形だろうが線形だろうが気にするヤツなんかいないんだから。
しかし、そんなことより……
「梶ー!ピクニック?」
「今度わたしも参加するー!」
「そのちっちゃい子紹介しロー!」
さらし者である。主に3年生の生徒から中庭の僕たちに浴びせられるヤジ。うすうす感ずいてはいたのだが、この中庭で食事をする生徒なんかいないんじゃないか?それどころかほとんどの生徒は教室で昼食を取るのがこの学校の通例のような気がするぞ。
適当に受け流し気にも留めないDQN。目立つ行為は避けたかった僕はまだ春だというのに汗をポタポタ垂らしていた。
理子はもふもふと頬張りながらパックのジュースをチューチュー吸っていて、周りの視線などあまり気にして無い。小動物の食事はいつも全力投球なのだ。一心不乱にワンツーワンツー。
「めずらしいじゃんカジ……あんたが誰かと仲良く食事とか」
一階の廊下の窓に寄りかかり気だるそうにDQNに話しかける3年生と思わしき女生徒。顔には多分に意図的な装飾が施され他人の目を常に意識していることがありありと窺える。
「ワリー理子!牛乳買ってきてくんねえか?」
「もふ?いいれふよ!」
DQNは自分のくたびれた財布から1000円札を理子に手渡す。
「お前も自分の好きなヤツ買っていいからな!」
「ふぁーい!ゴチでーふ!」
ひらひら1000円札を振り回す理子の走り去る姿からは電子的な効果音が聞こえてくるようだった。タラちゃん的なアレだ。
「やさしーんだ」
「なんだようっせーな。失せろ」
友好的とは程遠いDQNと一階の女子生徒。むしろDQNの方がイラついているように見える。
……。
うごけねえー!!なになにこの緊迫感!結界!?結界の中にいるの僕!?
たたたた退散しなくちゃ今すぐに!!
「そいつは?あんたイケメン好きだったっけ?」
「てめえらとツルムよりゃこいつらとメシ食った方がうまいんで。いいから失せろ」
なに?
なにこの間?
なんだかあのねえちゃん物凄く睨んでんぞおい!ちゃんと責任取れるんだろうなこのDQNヤロウ!!いや、責任取ってくださいお願いします。
「じゃ……またねーカジ」
「けっ」
ふわりと優雅に立ち去る自意識過剰気味の女子生徒は去り際まで僕を睨んでいた。その証拠に僕の背中はプールの滑り台のように汗が絶え間なく流れていたのだ。
「ひひひとつ、聞きいてもいいかな?」
「おう」
「理子を……ぎゅ牛乳買いに、いいいかせたのって」
「おう、やっぱ気付いたか。あいつにまで危害が及んだら困るからな。標的はお前にしといた」
ななななななななんだよ標的って!!??わけわかんねえっ!!いったいなにを言ってるんだこいつは!!??
「お前だって見当付いてただろ?まあそんな急にはこねえから心配すんなって!」
来ない?なにが来ないの!?急にはってコトはそのうち来るの!?
何が!?何が来るのっ!!バイオレンス臭立ち込めてんぞ万力ゴリラ!!
「面白くなりそうだなあおい!」
かっかっか、と高笑いするDQN。僕は足元の余ったカレーパンを眺めた瞬間吐きそうになった。