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ベクトルマン  作者: 連打
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〔カナ編〕玄関先の攻防




どんな仕事にもプライドを持つのは自由である。

まだ学生の身分の僕ではあるがそれくらいは分かっている、と思っていた。僕はあのウゾームゾー共を下に見ていたんだろうか?



「……」



ピン、と上品な警告音。エレベーターは事務所とは同じマンションの別の階にある待機所に到着したようだ。あそこはどうも居心地が良くない。だが僕はそういった立場に置かれる事に割りと慣れている。彼女らの見事なまでのシカトっぷりに晒されながら、突然異世界に飛ばされた僕が成り上がっていく妄想を脳内に展開することだって出来る。



「……」



でもそんな僕の態度が既に彼女らの怒りのコードを掻き鳴らしてしまっていたとは。オンナってのは共通の敵を見ると突然共闘しだすからなあ。『女の子同士繋がりなんて無い』とテンチョーは言っていたが、攻撃するためなら腕でも足でも徒党も組む。どうやらそういうことか。



「……」



はあ、気が重い。

僕には『誰かを下に見ないように振舞う』なんて出来ないから。なぜなら僕には見下している自覚すら無い。だいたいこんな僕がなんで誰かを見下すなんて出来るってんだ。



「……」



加えて今の僕には誰かの機嫌を伺いながら過ごす、なんて完全にムリゲー。本体逆さに持ったままソウルサクリファイス(無印)をプレイするようなものなのだ。

絶望的に『精神的余裕』の在庫が切れている。要はいっぱいいっぱい、振っても揺すっても僕から出るのはあぶら汗くらいだ。そんな僕に余計な発注するほうがどうかしてる。


…………と、着いたな。

僕は待機所の扉を開ける。ここの鍵はいつも開けっ放しで、玄関は女性モノの靴が所狭しと乱雑に散乱している。姉がこの玄関の状況を見たら、靴を全て階下に放り投げまとめて説教3時間コースである。



「……?」



あれ?靴……あんまり無いな。



「あ、ユキト君。おかえりなさい」



まあこんなこともあるか。今日は皆忙しいんだろう。僕はちょっとだけ気が楽になる。相変わらず全く食欲は無いがとにかく体を休めないとモタナイし。

僕はテンチョーから貰った履き慣れない靴を脱ぎシャツのボタンを一番上のものだけ外した。



「ゆ、ユキト君?」



「……」



なんだ、誰かいるのか。でもまあ誰かに声を掛けているようだし邪魔してもなんだし。僕は目を合わせないように足元だけ見ながら、誰だか分からないがオンナの子の横を通り過ぎる。



「ねえ……シカトしてる?」



シカトは良くないよなあ。返事くらいしてもバチは当たらないぞ。僕は元がアレなんでなかなか出来ないけど、僕のように社会不適応者で無い限り挨拶くらいはするべきだ、うん。



「そんなムシ、しなくても」



「うわ!?ちょちょ、って、あれ!?」



玄関にいた女の子は子供のように顔をクシャクシャにして、僕を見据えながら涙を必死に堪えているようだった。うおい!『ユキト君』!返事くらいしてやってよ!嫌われてるって思うのも無理ないだろ気配まで消しやがって!

僕はオロオロ紛れに振り向く。



「……」



気配どころか姿が無い。ソコには夜の闇と薄い通路灯の明かりが横たわるのみ、『ユキト君』は居なかった。と、いうことは……まさか。



「……」



この女の子は見えない誰かとお話することで自我の崩壊を防ぎながら日々を送るドリームの住人なんだろうか?それならそれで親近感を感じなくも無いこともないが……何度も言うが今の僕には余裕が無い。転生だのドラゴンだの伝説の勇者だのはまた別の機会にしてほしい。


僕は女の子の横を華麗にすり抜ける。刺激しないのが一番だろう。



「ゆ・き・と・く・ん!!」



「ぐえ」



ゆ・き・と・く・ん、の文字数だけ自分の足の裏を床に叩きつけながら僕の首を絞めるドリーム。僕まで『そっち』に連れて行こうってつもりなのか?それならしょうがない。

僕は眼帯してないに手を掛け背に隠し持っている(持ってるとは言ってない)妖刀小烏丸の柄に手を置く。自らの意識領域かっこいいの一部を意志の力で開放(かっこいいwww)しつつアカシャ断章の1ページに




ん?





……って、ユキト?



「ああ、僕か」



「他にユキト君居ないでしょ!?」



いつまでたっても慣れない。テンチョーが2秒で付けた僕の『店』での呼び名。そのくせ自分はずっと『新木君』と呼ぶ。そんなんならいっそ本名でもいいのに。

それに慣れないのはココの女の子もだ。現に僕はこの目の前の女の子も全く見覚えが無かった。



「こんな目の前でシカトされると思わなかった!」



「ああ……ご、ごめん」



対人関係ってのは、僕には敷居が高いなあ。

僕は子供のように頬を膨らましマンガのようにむくれて見せる女の子を眺めながらそう実感していた。

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