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ベクトルマン  作者: 連打
155/189

〔カナ編〕やめなよ(理子サイド)



「もう!なにやってんの周蔵くん!」



女の子達には先に行ってもらった。まああそこは私がいなくたって困る人なんていないだろうけど。


私と周蔵くんはコンビニの脇に設置してあったベンチに腰掛け、私はコンビニでペットボトルの水を買い周蔵くんに手渡した。

私は今少しテンションが高い。いや、ものすごく高い。

なんでか、なんて今更考えない。ずっと前からそんなことは充分知っているから。



「なんですかそのカッコ!?似合いすぎて違和感ないんですけど!?」



「そ、そうかな」



「そうです!」



こんな口調で話したのは久しぶりだった。

笑顔って……こんなに沢山勝手に出てくるものなんだと自分でも驚く。



「理子も、なにしてんのさ?こんな時間に」



「周蔵くんに言われたくないよ!完全に夜のヒトじゃんか!」



少し……痩せたみたいに見える周蔵くんは酔っていた訳ではないみたいだった。アルコールの匂いはしない。ただ高そうなスーツの上着には吐しゃ物が少し張り付いていた。



「ああ、いいよそんなの」



「はいじっとして!すぐ済むから」



持っていたウェットティッシュで軽く擦る。やはりアルコールの嫌な匂いはしない。だとすると体調でも悪いんだろうか?

今の私がそんなコト聞いてもいいのかな。



「またなんか問題?」



「……いや」



間違いない。

このひとはそういうひとなのだから。

また誰かの為に頼まれもしないのに必死で頑張っているのだ。私の時のように。



「……」



・・・・・・・

私の時のように。

その事実が少しだけ私の心に棘を刺す。そういうひとだと知ってはいても、だ。



「ねえ周蔵くん」



「ん」



「辛くない?」



「……」



周蔵くんはベンチに座り夜空を見上げた。

顎のラインが前よりシャープになっている。

歯を食いしばっているようにも見えるけど周蔵くんは何も言わない。辛い場所で爪先で必死に立っている。

全然変わってないなあこのヒトは。



「周蔵くん」



だから、教えてあげたい。

私が今までで知った事を。

『みんな』っていうのは実はそんなに重要じゃないんだって。

そんなに頑張らなくても、どうにもならないことなんてホントに少しだけしかないんだって。



「どこか、行こうよ」



「……え」



上手にかわせるんだよ。

全部全部避けちゃおう。それで困るヒトなら『友達』じゃない。そうやって線を引いていけば自分に楽な範囲だけ残るから。そのほうがきっと。



「はい、立った立った!」



「……」



周蔵くんの手を引く私。

当然ながら私の力で男の人を引っ張って行くなんて不可能だ。でも周蔵くんの体はゆっくりだけど移動し始めている。もうベンチから腰を上げているんだ。



「理子……僕行かなきゃ」



「……そんなボロボロでどこいくの?」



そう、このひと今ボロボロ。

だって私が首に両腕を回し周蔵くんの頭を胸に抱えても……なにも抵抗出来ないでいる。

繁華街の隙間で……いま私は周蔵くんと抱き合っている。



「……」



言葉は要らなかった。

こんな時の言葉はいつだって邪魔なだけなのだから。




「……ふっグ」



ぎゅ、と私の背中に手を回しきつく力が入れる周蔵くん。声を必死で押し殺してはいるが抱き合っているので誰でも分かる。

周蔵くんと接している側の私の頬が……濡れていた。よほど辛い事に耐えているんだろう事は痛いほど伝わってくる。

だって、あの傍若無人な周蔵くんが、こんなに無防備で小さい。


……なんでここまで。



「……周蔵くん?」



「……」



「頑張るの、やめなよ」



「……」



何をしているのか、なんてどうでもいい。

誰を助けたいのかなんて関係無い。

『線』を引けばいいんだよ。

そうすれば私の背中で握り締めてる手の平だって……頭掻いたり挨拶したり、私と手を握ったりする時に使えるんだからさ。


だから。



「……ぁ」



なんだろう?

周蔵くんは私に回した両腕を解くと、急にしゃがみ込み何かを凝視している。じっと、動かない。



「がちゃがちゃ?ちゃんとゴミ箱入れないとね」



子供の頃よくやった覚えがある、駄菓子屋の脇に設置されていたがちゃがちゃ。その中身がカラになったケースがコロンと転がっている。



「……理子」



「ん?なに?」



「これ、最近のは『カプセル・トイ』って言うんだ」



「そうなんだ」



周蔵くんはその『カプセル・トイ』のケースを拾い上げると、自分のスーツのポケットに乱暴に突き入れる。

ふ、と空気が吹き抜け夜の裏路地が入れ替わる。なんだろう、コレ?



「理子!」



「ひゃあっ!?」



周蔵くんはさっきまで私の体を抱えていた両腕を自分のポケットに突っ込むと大声で私を呼んだ。びび、びっくりした。



「早く家帰るんだぞ!いつまで遊んでんだよ!」



「へ!?そそ、そんなの周蔵くんだって」



「僕はまだやることがあるから!でも理子は帰れ!この辺はロクなもんじゃないからな!」



「でも、いや、ちょっと!?周蔵くん!?」



「じゃあ、ありがと理子!ちょっと元気でたからっ!」



私に向かって突き出したコブシにはさっきのカプセル・トイの空きケース。ぽかんとしている私を置き去りにして去っていく周蔵くんはさっきまでの徒労感は薄れているように見えて。



「……」



ワケが分からないけど……じゃあ、いっか。なんて思ってしまった。

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