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ベクトルマン  作者: 連打
151/189

〔カナ編〕なるべくして


その日の昼休み、中庭にはやはりユズキカナの姿は無かった。



「……」



僕は藤崎と学食でパンを買い、いつものように芝生で食べようと……



「新木!僕なんか飲み物買ってくるよ!なにがいい?」



「へ?……ああ、なんでも」



じゃ、と走り去るイケメン。

今日の朝教室で僕の体を撫で回しながら『大丈夫なのか新木!?腕とか取れてないか!?』と人目を気にしない大騒ぎ。ガンプラじゃないんだから、腕なんかそうそう取れたりしない。偉い人にはそれがワカランノデスヨ。

僕はぺたんと芝生に座ると購入済みのカレーパンのビニールを……



「やめとけ」



「ごっしゅ!?」



いきなり後頭部に蹴りて!!

ややや野生の挨拶は僕には不要なんだ!なんでこのゴリラは殴る蹴るでしかコニュニケート出来ないのか!?あああ、みみ見ろ僕のカレーパンが芝生に転がり、芝生の緑と油のテカリのコントラストで余計美味しそうになってるじゃないか!!

ようしっ!さあ!たべようかああっ!!



「って聞けよおい」



「ふむ?」



カレーパンを咀嚼する僕の隣に仁王立ちするゴリラ。下から見上げるとまるで大木である。ムダに威圧感を発しているのはいつものことだが、今日はなんだかしつこいなあ。いつまでその呆れ顔で突っ立ってんだ?



「カナの借金な」



「むぐ!?」



ゴリは筋肉のマトワリ付いた足を折りたたみようやく座る。

ってか、情報早いなコイツは。いや……もともと知ってたのかも知れない。ゴリとユズキカナは大雑把なカテゴリーでは同じ所に所属していると言ってもいい。DQN繋がり、である。



「ありゃ、大したことないぞ」



「金額が?」



「そうだ。カナにとっちゃハナクソみたいなもんだろうよ」



「……」



ん?どういうことだ?

ゴリはゴリラのクセに丁寧にサンドウィッチの包装を神経質に剥がす。そのまま食えよ期待に答えない男だなあ。


僕は食べかけていたカレーパンの残りを口に放り込み、その芳醇な味わいが口内に残らなくなるまで咀嚼しその後ゴリの話を聞く事にする。



「どうにでもなるチンケなカネの為にてめえが出向いたのはかなりヤベエ所だぞ。自覚してるか?」



「なんでそんな微々たる金額の為にユズキカナはあそこを辞められないのさ?」



「さあな。だがこれだけは言える。もうやめとけ。しょせん高校生にゃ荷が勝ち過ぎてんだよ」



「……」



この口ぶり。態度。言葉のチョイス。



「あんた、知ってたのか?ユズキカナ困ってるって」



「知ってたつーかな……こりゃ『そうなるべくして』なってんだよ。カナだってそんな事は百も承知だろう。んでこっちは想像だがてめえがあんなとこ行かなきゃいけねえ程は、カナは別に困ってねえよ」



もしゃもしゃとサンドウィッチを豪快にがっつくゴリ。

僕の手の平には芝生がチクチクと小さな痛みを伝えている。と、いうことは?

つまり、なんなんだ?



「引っ掻き回して一番困るのはカナだ。てめえを巻き込んだなんてあいつが知ったら、誰より一番自分を責めるのはカナなんだよ」



抑えた口調、合わせない視線。全部が全部ゴリらしくない。

噛んで含めるようなその話しぶり……あんたそんなんじゃないだろう?



「ここはほっとくのが優しさってやつなんだよ。カナを大事に思うなら……ほっといてやってくれ。カナだって自分のケツは自分で拭くだろ」



ぽん、と僕の肩に手を付いてゴリは立ち上がった。もう言いたいことは言い終えたんだろう、クシャクシャとサンドウィッチの包装を手の平で丸め校舎へと歩き出す。



「……」



そういうもんだ。

ほっといてやってくれ。

カナは困って無い。



「……」



ぐ、と僕は芝生を掴む手に力が入る。勝手に動いたように。無意識に。



そしてこれも無意識に……口から言葉が静かにこぼれる。



「言いたいことは……それだけかよ」

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