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ベクトルマン  作者: 連打
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坊主


午前中の授業をこなししばし呆然とする僕。

理解は二の次、ものすごいスピードで黒板に書かれていく文字や数式をただただ書き写していくだけの作業。教師たちは僕ら生徒の理解の度合いを確かめながら授業を進める、なんて無駄は全くする気が無い様でさっさと教科書をめくっていく。和やかさなど微塵も無いコミュニケートなど不必要。

カタナ鍛冶のように「技術は盗んで覚えやがれ、このペーペーが!」的なオーラをどの教師も満遍なく醸し出していた。


……。


いやあ、快適!悠々空間!


和気藹々と進む授業なんかマッピラな僕は理解出来たかどうかはさておき、その突き放された授業内容にとりあえず満足していた。知識を詰め込むだけ詰め込み、後は内容を生かすも殺すも個々人の努力しだい。知識を消化し続ける自信は全く無いがそのクールなスタイルには大いに共感を覚えた。


「なんだよコノ授業……コピー機になった気分だよ」


僕の前に座っていた男子生徒ががっくり肩を落す。まあ、気持ちは分からなくもない。僕のようにハナから底辺すれすれの泥仕合を覚悟していなければ絶望感にも浸るというものだ。それほど圧倒的な知識の物量攻勢だったからなあ。


「そう思わない新木君?」


「へっ!?」


いつの間にか振り向いていた男子生徒は僕の顔を覗きこみ苦笑いを浮かべている。

いかにも優等生、縁の無いシンプルなメガネをかけ屈託のない物腰。よく通る声。それに随分と整った顔立ち。

リア充臭が半端じゃない。よってこいつは敵味方で分類すれば間違いなく敵である。


「ああ!でも新木君はお姉さんに教えてもらえばいいのか!あんな美人の家庭教師がいるんなら新木君の余裕の態度も納得だ」


さて。

そんなにいっぺんにボケ倒されてもツッコミ切れないぜ坊主。

まずオネエサンは美人じゃないし、何か教えを請うつもりもさらさらない。そして、僕には余裕など皆無!分かったらその爽やかな笑顔をやめねーかこのリア充がああ!!


「なになに?なんのハナシ?」


横の席から唐突に掛けられた明るい声。その声の主はニコニコと笑みを浮かべながら僕とリア充の様子を伺っている。


「新木君はうらやましいって話。智花ちゃんもそう思わない?」


「あー、そうかも!イケメンはいいよねー。で推薦組でしょ?隙ナシって感じ。でも藤崎君だって結構イイ線いってると思うよ」


「はいはい。気を使わせて悪いね」


「どういたしまして」


僕が陶器のタヌキのように存在感を消している間、僕の目の前で応酬される言葉のピンポンだま。知らない固有名詞が気軽に飛び交う異空間。一体いつの間に己の個人情報を交換し合っていたのか、「藤崎」と呼ばれたリア充と「智花」と呼ばれた女子生徒は実にナチュラルに会話を楽しんでいた。


……。居心地悪い。落ち着かない。


なんだろう?このいけ好かない感じ?


「新木君はお弁当?」


誰が作るっていうんだよ!?……しかし僕の家庭環境など知る由も無いこの女生徒にいきなりブチ切れるほど僕も小さな男じゃない。


「ててて適当に……パンでも」


「お姉さんに頼めばいいのに。そしたら僕にもお裾分けよろしく」


だからコイツは何がそんなに嬉しいんだよ!?いちいち爽やかな空気振りまいてんじゃねえ!!


「あー!わたしもわたしも!」


調子に乗ってんじゃねえぞ女子生徒!!てめえなんざ名前が僕の嫁の『智花』と一緒じゃなけりゃ顔写真に『わたし寂しいの★』ってキャプション貼ってネットにばら撒いてやるとこだ!エロ親父の鼻息で毎朝目覚めやがれ!!


「シューゾーくーん!お昼買いにいこー!」


ガラガラと扉が開いたかと思うと同時、小学生のようなテンションで片手をピンと伸ばしちっさい女の子が僕に向かってきた。


「?新木君の知り合いかい?」


「あー、さすがなんだー?」


にやにやし・て・ん・じゃ・ね・え!!てめえらリア充と一緒にすんな!!


「シューゾーくんの友達の楠理子です!シューゾーくんがいつもお世話になってます!!」


友達大好きクスノキリコは元気にニッコリと笑って挨拶する。


「あ、藤崎です。よろしく理子ちゃん」


「きゃーちっちゃい!カワイー!わたし智花!!」


余程理子はうれしいのか二人の手を握ったままブンブン振り回し握手のつもりで興奮していた。なんつーか捨て犬みたいだよな理子って。


「理子ー。周蔵いたか?」


ぬぼっと立ち昇る不穏な陽炎が教室内を嘗め回すように観察する。一瞬にしてクラスの雰囲気の硬度が増したような気がした。


「あ!梶せんぱーい!!こっちこっち!」


ぴょんぴょん跳ねる理子を尻目にひそひそと僕に声を掛けるリア充。


「あの人も……新木君の知り合いかい?理子ちゃんとギャップがありすぎるような……」


……。

う。

うはははははははははっ!!そうだその顔だ!!その絶望を湛えた目、ビビッて引きつった歪な笑顔!!

はじめてDQNが役にたったぞー!!あいつにはあとで褒美に窓枠のホコリを進呈しようじゃないか!!


「ほんものだー。はじめて見た」


「え?智花ちゃん知ってるのかい?」


「うん、割と有名人だよあのひと。雑誌のモデルとかのバイトしてるし」


「へー!ワイルド系ってことかあ。すごい人と友達なんだね新木君」


…………。


万力ゴリラの褒美は取り消し!!アフリカに送り返せ!!全くなんの役にも立ちゃしねえなあのDQN!!

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