〔カナ編〕カッパに掛かるコスト(梶サイド)
『どどどうしようセンパイっ!!たたたたすけててええ!!』
「……まず落ち着けよ藤崎。ラッパーかてめえは」
嫌な予感はしたんだよなあ。
藤崎が俺に電話してくるなんざモメ事以外ねえ、そう分かっていたはずだったんだが……つい発信者見ずに出ちまった。なんせ俺は今メシを喰っていたんだ。精神的に無防備な所に付け込まれた。
『新木が!!ああ新木が、さらわれたああ!!』
「皿割れた?てめえがラッパーならあいつはカッパだったのかよ。愉快なコンビだなおい」
『ちがうよっ!!連れ去られたんだよっ!!』
「わかったわかった。今ラーメン喰ってるから5分後な」
『くぁzうぇsxcxdfr』ピッ
ああ、うるせえうるせえ。
俺はスマホの通話を切ると丼を一気に傾ける。
……あのバカ、カナんとこ突撃しやがったな。考えナシにも程がある。カナもいつまでもずるずる出勤してやがったんだ、自業自得と言えなくもねえだろうが。
こんな事は本来自分で何とかするもんなんだよ。なにまた突っ走ってやがんだよイカレ野郎が。
「ありがとうございましたあ」
店を出てちょうど5分後、律儀にきっちり藤崎からの着信。せっかくの週末がバカ共の相談相手とは……我ながら物好きになったもんだ。
『がじぜんぱいいいいいっ!!』
「うるせえよ!順を追って喋れ!」
藤崎はバカとその同級生のオンナに会いに行った事、そのあと現われたチンピラみたいな男と車で連れ去られた事を興奮しながら語る。やはりあのオンナ、タチ悪いな。その車の男はクソオンナに敬語だったっていうからまあ、下っ端だろうな。
『助けに行きましょうようっ!!新木があああ!!』
「だから喚くんじゃねえよ。助けに行くったって場所ワカラねえんだよ」
『……梶先輩でも?』
「あのなあ」
釘を刺しておいたほうがいいか。
あのクソバカは手遅れのバカッぷりだが藤崎までおかしな事始めたら収拾つかなくなる。
本来普通の高校生が首突っ込んでイイことなど起こりえない、掃き溜めの世界なのだから。
「たとえ知ってたって俺はいかねえぞ。そいつらヤーサンだしな」
『いっ!?』
「てめえらがなに考えてるかなんて知りたくもねえが、一般人が手ぇ出しても得るモノなんかなんもねえ人種だよ。俺は関わりたくねえ」
『……でででもっ!!じゃあ、新木はどうするんですかっ!?』
「……そのうち帰ってくんだろ?」
『ななななんで分かるんだよそんなことっ!!』
・
逆、だ。
その手の人種だから分かる事もある。
「ああいったやつらはな。『コスト』が大事なんだ」
『……コスト』
「そうだ。あのバカに手を出して警察にでも引っ張られるとするだろ?」
『……はい』
「すると『営業』に支障が出る。構成員だろうがなんだろうが金儲けが出来ない人間は重視されない仕組みになってんだよ」
『はあ……』
「別にヤクザの組から給料が出るわけじゃねえんだよ。自分で『シノぐ』んだ、文字通りな。ワケのわからねえガキに構って今月カネありません、じゃ通らねえのさ。コストが掛かり過ぎる」
『はぁ、あの』
「なんだよ」
『梶先輩ってヤク』ぴっ
俺は普通の高校生だドアホウ、ムカついた俺は瞬時にスマホの電源を切った。
まあ『今回』は多分大丈夫だろう。あのバカに価値なぞ無いしな。
2,3発入れられて放り出されるだけ、まあ円満解決といって差し支えねえ結末だ。
「……」
余程怒らせねえ限り、大丈夫なんだよバカヤロウが。
勢いで突っ込んでいい場所ってのをわきまえやがれクソが。ソコはてめえの居場所じゃねえし、そんなところで粋がってみたってカナは救えないんだよ。
クソバカが。
俺はポケットにスマホを捻じ込むと手近に見えるネオン街の一角へと歩を進める。
……カナの事務所とツルんでるヤツラの、ヤサの情報くらい掴めないかと期待しながら。