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ベクトルマン  作者: 連打
142/189

〔カナ編〕僕のまま



「こういうのが高校生活っていうのかなあ。なんだかワクワクするね」



「……」



僕と藤崎は智香のぬるい視線を背中に感じながらも学校を後にした。

金曜日の放課後、週末到来である。昨日ちょっと調べたら住所も電話番号も当然のように分かったのだが……いきなり自宅に押しかけるのはハードルが高いし、電話で用件を聞くのもなんだか納得がいかなかった。きっと適当にあしらわれて切られるのがオチのような気がするしなあ。


絶対に事情を聞き出さなくてはならない状況下では音声のみのコンタクトではどうにも頼り無い。

だから『聞きたい事がある』とだけ電話で告げた僕は、ナミさんが通っている女子高に直接行くことにしたのだった。



「女子高なんだろその新木の同級生って。僕女子高行くの初めてだよー」



「僕も」



意外なほどナミさんは快諾した。待っているからと。

むしろナミさんの方から僕の方に出向く準備もしていたらしい。『準備ってなんだよ』と少々おっかなびっくりではあるが物事がスムーズに進行すること自体になんの問題も無い。

望むところだ。



「どうしたのさ新木?」



「いやあ……」



ウキウキを隠し切れない藤崎は電車に乗ってからも妙に落ち着きが無い。つり革を両手で持ちやたらと流れる景色にツッコミを入れていた。普段見慣れない車窓というのは新鮮な気持ちにもさせるんだろうが、やっぱり……なあ。


僕は藤崎に事情を話そうと思った。

このままでは申し訳なさ過ぎる。ヘタレな僕の監視役に呼んだなんて聞かされたら藤崎はどんな顔をするんだろうか?

恐らく、というかまず間違いなく歓迎はされないであろう死地、ソコにひいてあるハリノムシロに一緒に座ってくれと言っているのを今更ながら自覚していた。



「新木?」



「藤崎、じつはさ」



「カナ先輩だろ?」



藤崎は僕に一瞬だけ笑いかけると窓の外に視線を移しながら呟いた。



「そりゃあ分かるよ。僕だってカナ先輩は心配だしね。恐らく今から行くトコってカラオケでもなければゲーセンでもない。不穏当な空気漂う敵地ってカンジだ」



「……」



見慣れない景色、電車のシートの色聞きなれない駅の名前。

そんな中……まったくもっていつも通りの、確かな。



「また新木ひとりで暴走しやしないかとヒヤヒヤしたけど……頼ってくれて嬉しいよ。今回は僕だってちゃんとやる。何するのか知らないけどね。でもカナ先輩の為に新木が動こうとしてるのは間違いないみたいだし。だったら僕だって」



いつも通りの確かなイケメンであり続ける藤崎は照れ臭そうに『やってやるさ』

と小さく握ったコブシを僕に見せた。僕はケンカ弱い自信あるし藤崎だって似たり寄ったり。まあ女子と殴り合いに発展する状況って考えにくいけど……僕はそれでも藤崎の気持ちが嬉しかった。



「……藤崎って変わってるよなあ」



「新木に言われたくない。君が変人チャンプ。言っとくけど僕は君に引っ張られてるだけだから」



にひ、と笑う藤崎。

ユズキカナが今どんな状況にあるにせよ事情を知らなければ話にもならない。

なんでもないならそれでいい。でももし何か問題が発生しているんなら。



「……」



ユズキカナの力になりたかった。

マヌケなヒーローごっこっで僕は失敗を繰り返したから。

だから、今度こそ。



「新木って笑顔気持ち悪いな」



「そう?」



・・・・・・

僕は僕のままユズキカナを助けるんだ。

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