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ベクトルマン  作者: 連打
134/189

〔カナ編〕オチ寄越せ



ーーー15分前ーーー



「今日は貸切なんですぅ。すいませーん」


「いやあの」



……困った。なんて言って説明すればいいのか。

僕は現在同窓会会場の扉の前で足止めを喰らっている。受付の役割を担っているであろう女の子2人組にうそ臭い笑顔を向けられながら、やんわりとお引取り願われる僕。



……。



いや、分かってんのさ。

なんせ卒業から半年足らず、いくら僕の存在感が希薄に過ぎるとは言っても毅然と姓名を名乗りさえすれば覚えている人間の1人くらい多分いるだろうし……なによりポケットに捻じ込んである同窓会の招待状を提示すればいいのだ。



「お兄さんかっこいいから入れてあげたいんだけどさー。同窓会なんて言っても冴えないオトコばっかだしぃ。ってかワタシお兄さんとフケよっかな」



僕は名前も思い出せない女の子2人が目の前で楽しげに語るのをぼけっと眺めながらふ、と気付く。

そうか。僕が全くこの女の子達の事を覚えていないんだからこの子達だって僕の事なんか覚えているワケがない。クラスの他の人間も同様だろう。なんせ僕は積極的に目立つ行動は避け、なるべく誰とも関わらないようにしてきたのだ。



「あ、ずるいー。わたしも行く行く」



……にしても。出会い頭にコントを見せられる、という流行りでもあるんだろうか?

キャッキャと眼前で繰り広げられる女の子2人のオチを僕は心待ちにしていると言うのに一向にその気配は無く、むしろ本当に行きかねない勢いまで感じられる。時給でも発生しているかのような迫真のコント、僕はそこにプロ意識を感じざるを得ない。



「行っちゃいます?行っちゃいます?」



僕の腕を二人の女の子がぐいぐいと引く。



「あ、いやその」


「いいじゃないですかぁ。時間あるんですよね?」



時間はある。むしろ今すぐにでも明日よ来い。っていうか早くオチ寄越せ。

嫌われ者の僕にオカシな嫌がらせしたくなる気持ちは分からなくもないが、なんというか物凄く居心地が悪いし。

さっきから。

強めの視線が突き刺さっているのだ。僕の後頭部辺りに。



「おい」


「ぐえ」



僕の後方から伸びてきた腕に襟首を力任せに引っ張られクビが締まる。


「同・窓・会なんだよな今日?」


「が、頑張ってみたけど入れてくれなくて」



柚木カナは案の定僕の偵察の任を委託されていたようだった。僕を引き寄せクビに腕を絡めながら怒気を孕んだ迫力満点の笑みで言葉を吐き出す。



「参加前からお持ち帰りされてんじゃないわよ」


「……オチまで待ってみたんだけどよく分かんなくてさ」


「オチってなんだよ!?意味わかんないから!」



意味分かんないのは僕だって同じである。そんな真っ赤な顔で八つ当たりされたところで僕にはやっぱり意味が分からない。大体『お持ち帰り』ってなんだよ、この子達の家に招かれたワケでもないだろうに。



「はぁー。来て良かったよわたし。あんた一人きりじゃ危なっかしくてしょうがないし」



「……」



僕の肩に両の手の平を置き大げさに溜息を吐くユズキカナ。

しかしまあ、こいつは夜の似合うメスである。道行く人間は『とりあえずユズキカナを見る』のが国民の義務で有るかのように視線を遠慮がちに、あるいはあからさまに眺めていく。観光地の壁画のような扱いである。



「あのさ。こいつあんたらの」


僕についての説明を女の子2人に振ろうとするユズキカナ。しかしその試みは脆くも本人達に妨害に遭う。


「ゆ、柚木ちゃん!?」


「うわ!雑誌みてますぅー!ほっそ!」



僕の手を掴んでいたことなどなかったかのように方向転換するとユズキカナに走り寄る女の子2人。


「はいどーも。てかコイツは……」


興味薄げに申し訳程度に愛想笑いを浮かべるユズキカナ。しかし女の子2人はそんなツレナイ態度を物ともせずアグレッシブにユズキカナに詰め寄る。



「柚木ちゃんも来ませんか!?みんなびっくりすると思うし!」


なんでそんな話になるのか?3次元のメスの思考はあちこちトんで行くので僕にはやっぱり理解できない。


「それってわたしがあんたたちの同窓会に入っていいってコト?」


「はい!全然おっけー!きっと盛り上がるし!」



不意にグルンと回るユズキカナの首。その視線に捉えられた僕は非常に気まずい。なんせたった今どさくさ紛れに逃げようとしていた瞬間だったのだから。



「んー。んじゃお邪魔しよっかな!たまにはファンサービスも必要だしねぇ」


にひひ、と僕を視線で捕らえながら不敵に嗤うユズキカナ。全く物好きなオンナである。ではまあ、僕はこの場を助っ人に任せ家路に着こうかと思うのである。

適材適所という言葉が示す通り、僕にはこんな行事は向いていないのであるからして。



「あ!彼氏さんも参加で良いんですよね柚木ちゃん!?」


「もちろん!」


否定しろよ。

ユズキカナの謎の承諾を取った瞬間、たったったと一人の女の子が再度僕に駆け寄ってきて自分の腕を僕の腕に絡ませる。



「行きましょ!?」


「……ちょっと、そいつと腕組まないでくれない?」


「あ、あ、ごめん柚木ちゃん!」




さすが

オンナDQN、である。最近はナリを潜めていたとはいえ瞬間最大風速は大したものだ。その辺の女子高生など眼光一発である。


……。



っていうか、なんだこの針のムシロのような精神状態は。なんかものすごく居た堪れないぞおい。……おおお、おかしいな。僕はただ同窓会に出て存在を消しつつも『参加した』という戦果だけを持ち帰りぬくぬくとベッドに横たわるつもりだったのに。

だというのに。


「ん?なに?」


「……」



僕の横でやけに楽しそうなユズキカナと同伴で同窓会に参加するはめになるとは。

只でさえ人目を集めるユズキカナと一緒にいては、中学時代の僕のスキル『スネーク』は効果を相殺されてしまう。



…………。


僕は冷たい汗がつつ、と背中を滑り落ちるのを感じていた。




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