束の間の休息(奈美サイド)
ボム、といかにも重そうな音を立てて助手席のドアを閉める。
『ホントに送るだけかよ』とでも言いたいんだろうか、物欲しげなその運転手兼オトコ友達は渋々車を出発させていった。
「まったく」
同窓会っていってんじゃん。2.3回ヤッただけでジェラシーっぽい空気出さないで欲しいし。マジうぜえカラ。
わたしもホラ、なんてーの?
荒んだニチジョーに飽き飽きしちゃってさ。清らかな空気?そういうのが欲しいワケ。みんなまだあん時のまんまなんだろーなあ。ウラヤマー。ピュアってウラヤマー。
「へー」
割といいトコじゃん。
チャラそうなオトコ連中に(まあアクマでもガクセーレベルだけど)手配させただけあるね。ここなら酒も置いてそうだし貸切って看板あるから気兼ねなく楽しめそう。
「おぉおそかったじゃん」
「はろ」
同窓会の会場の前の歩道でオトコ共がわたしを待っていたようだ。
「てか幹事が遅刻とかなくね?」
そう、わたし幹事。んで重役出勤。
「いいじゃん、もうはじまってるよね?早く中入ろうよ」
ちょろい。
いつもの『相手』に比べれば全くイージー。ちょっとニコッとすれば細かい問題なんて無かった事になるのをわたしは経験上知ってる。
「奈美こねえとかわざわざ来た意味ねえし。久しぶり、元気?」
わたしを呼び捨てにするこの男はモトカレだ。卒業以来一切連絡を取っていなかった……どころか綺麗サッパリ忘れちゃってたわ。
「いこうぜ」
「っと?」
いきなりわたしの腰に腕を回し、やっすい香水の匂いを撒き散らすこのオトコの名前……まだ出てこないわー。サルッ振りだけは相変わらずのようで『やりてえ』感ハンパネーし。こいつ絶対今日ゴム持ってるわ。ありえねえ。
「ってかなんであんたらぞろぞろ揃って外いんの?」
するりとサルの性欲まみれの腕をすり抜けその他男子A.B.Cに笑顔イッパツ、もちろん名前は出てこない。
でも……こいつら確かイケメンで徒党組んでたクラスの中心軍団だったし、わたしも良く一緒になって騒いでたなあ。そのこいつらが同窓会会場から居なくなるなんて今って中どうなってんの?
「奈美待ってたに決まってんじゃん。いやマジマジ」
「はいアリガトー」
まあその線もアリ。実際いまわたしのうしろで待ってる香水臭いサルなんてのは聞かなくても分かる。
「それがよー。奈美覚えてる?『肉団子』、シャレであいつにも送ったんだよ招待状」
「え?きてんのあのデブ」
意外ー。
さんざんこいつらにおもちゃにされてんのに。まあ興味ねーけど。
しかしこいつらも飽きないね。いまさらサッカーボールぶつけたり制服燃やしたりバケツで水ぶっかけたりしたいのかね。それはそれで笑えるかもしれないけど今度の機会にしてくんね?ってカンジ。
なんせ今日のわたしは『イヤシ』求めてっからさー。
「それがさー、どうも空気おかしくて」
ん?あんたら元気だけしか取り得ねーくせになんかたそがれちゃってる?
「なーによデブ来たくらいで。もしかしてザイアクカンってやつ?今更ハンセーしちゃってんの?」
「違くてよー。まあいいから奈美も見て来いって」
なんなんだ?せっかくわたしが企画した同窓会だってのになにタメイキついちゃってくれてんの?マジさむ。こいつら所詮はただのノリしかないガキだったってことか。
虐められっ子にビビルいじめっこ。マジ笑える。
しょーもない罪の意識にサイナマレちゃってんの?だっせー。
「んじゃわたし行くよ?あんたらもハンセー終わったら来なよ」
くるんと向きを変え店の中へ行くわたしの背中でなにやらベンカイらしき『そんなんじゃねーし』みたいな呟きが聞こえてくるけど……ま、いっか。ほっとこ。
んじゃわたしはつかの間の『イヤシ』を満喫するとしようかねー。